議会制民主主義の危機


「花・髪切と思考の浮游空間」に以下の記事を公開しました。


民主党政権政権運営にかかわって、小沢一郎がイニシアチブを握り、国会改革が強く打ち出されてきました。それは、民主党内ではたとえばこんな事態も呼んでいるわけです。

民主、国会質問する?しない? 小沢ルールへの対応迷走

結局、氏によって提案されているのは、議会制民主主義を揺さぶる内容をもっていないでしょうか。
■官僚主導から官邸主導という強調の危険性

官僚主導をやめる。これが民主党政権のいっていること。やろうとしているのは、たとえば官僚による国会答弁の禁止です。
国会は、憲法には「国権の最高機関」として「国の唯一の立法機関」であることが第41条に定められています。
同時に、同62条で、「第62条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」として、国政調査権を定めています。当時の内閣法制局は、「国会は憲法によって、立法や予算議決権、国務大臣の出席・答弁要求権があること、内閣は国会に連帯して責任を負うことなどから、内閣の行政権全般にわたって、その政治的責任を追及する「行政監督権」とも言うべき機能を持つ。そして、これらの機能を有効に行使するための補助的な権限・手段として、憲法62条により国政調査権を有していることになる」(大森法制局長官、96年12月10日)と答弁しています。
ですから、高級官僚の不正・腐敗がひとたび発覚すれば、国会によび、直接、議員がただすことがこれまでおこなわれてきました。
民主党が考えているように、官僚の国会答弁を禁止することになれば、従来のように直に質問し、ただすことはできず、国政調査権・行政監督権を発揮する上で大きな障害となってしまいます。
つまり、民主党政権が提案している方向は、官僚支配を廃するといいながら、行政にたいする国会の調査、監視をないがしろにするものといえるのではないでしょうか。
議員内閣制の基本原則がまったく横におかれているといえます。

議員内閣制の基本原則を否定するかのような政権運営は、たとえば国家戦略室や行政刷新会議などというものにも表れています。これは、組織機構上の位置づけも不明確で、自民党時代の経済財政諮問会議と機能的には事実上、同じ役割を果たしているといわれても仕方がありません。施策と政治が、国会でも内閣でもないそこで決まるわけですから。

■行政にたいする調査と監視を弱めるように作用する

小沢一郎の国会改革では、委員会定数の削減、委員会定例日の廃止も提案されています。すでにこのエントリーでふれました。委員会定数の削減は少数政党を排除します。

委員会の定数削減を言い出しているようで、これをどうみればよいのか考えなければならないようです。議員提案は、国会と有権者・国民の距離感をそのまま反映する一面を当然、もっています。これ自体、正負両面あるという意見はあるにしても。今回、小沢がいっているのは、委員会の定数削減です。その提案の理由として、彼があげているのは、国会議員中心の国会にするということです。想定できるのは、これによって少数会派は排除される、されるだろうということ、発言の機会が制限されるだろうということです。

しかも、小沢は、副大臣政務官の委員会所属を原則義務づけるようですから、そうなると、政府の政策関与を強化する方向をめざしているのだろうと想像がつくわけですね。ですから極端にいえば、委員会審議は、政府提案の法案を追認するに等しいものになりうる。その可能性はきわめて強いのではないか、こう私は思うのです。

また、小沢一郎のかつての著書『日本改造計画』で、すでに委員会定例日の廃止をのべています。そこでは、国会審議の効率的運営を前提に、国会の会期制、大臣の義務づけ廃止などとともに主張されていました。

「国民と新しい政府との契約書、国民からの命令書と考えてもよいと思う」といったのは鳩山首相です。この言葉でも分かるように、お墨付きをもらったのだから、トップダウンで進めるといわんばかりの態度です。
別のエントリーでこうのべました。
民主党の内部の意思決定は、栃木県知事のいうトップダウンがずばりあてはまる。意思決定の方向に、トップダウンボトムアップという2つのものがあるのなら、民主政治に必要なのは、後者の方でしょう。こういえば、実行が遅れるという反論が小沢一郎あたりから聞こえてきそうですが、民主主義はある意味で時間がかかる、こう私は教えられてきました。・・・しかし、逆にいえば、国民の多数の支持を受ける政策を政府がもっているのなら、野党がいかに抵抗しようと、批判を結果的に受けるのは野党ということになるでしょう。引き延ばしが批判の対象になるはずです。」(ほんとに民主・党なのか。。 

ですから、有権者のチェックが必要になる。そのためには、国会審議の充実が欠かせません。行政にたいする国会の調査と監視を弱める民主党の提案には反対せざるをえません。