世相を拾う(11月11日)

利益が第一。景気回復はどうなる。。− トヨタの派遣削減

今朝の「サンデーモーニング」は、大方のテレビ報道番組がそうであるように、米大統領選挙をとりあげていた。次期大統領をまちうける課題のひとつに深刻な金融危機がある。オバマは就任早々、この難問に立ち向かわざるをえない。この米国の危機をどのようにオバマが打開していくのか、話はそこを中心にすすんだ。

この金融危機は世界を覆い、時が経つにつれて、日本へもその波が押し寄せている。米国市場に依存してきた自動車産業では、その影響をもっともこうむるであろうことは明らかで、たとえば数日前のトヨタの業績見通しの厳しさにそれは反映されている。結局のところ、派遣労働者の大型切り捨てで資本は乗り切ろうとしている。

番組では、いまや世界有数の自動車生産工場地域になった九州の2つの工場を取り上げていた。労働者が働く場を失うばかりでない。自動車メーカーの生産に直結している自動車部品下請けのある中小企業の社長は、繁忙期の4割に生産が減ったことを坦々と語る。夜勤明けの労働者が立ち寄っていた飲食店では、この6カ月余りで極端に客足が減ったという。派遣労働者向けに賃貸住宅を借り上げていた派遣会社は、メーカーの減産によって借り上げていた部屋を減らすほかはない。したがって、突然の契約解除が相次ぎ、不動産会社では今後の借主確保もままならず、部屋を空けておかざるをえない、と困惑した様子でインタビューにこたえていた。
しかし、企業は経営者、株主だけでなく、そこで働く労働者から成り立っているのだ。商品を買うのは消費者である。企業はこの意味で、地域の支えがなければ存立しえないものである以上、労働者も地域も犠牲にしないという責任が企業には求められているのではないか。

番組のなかで、「ニュース23」のキャスターである後藤謙次が、この事態に際して、アメリカとの協力をより強化しなければならないなどと的外れなコメントをのべていて、海外に依存するのではなく、国内需要を高める努力が必要だと強調していた江川詔子の姿ときわめて対照的であった。江川のいうとおり、経済の軸足を外国依存から、国内消費を高める方向に切り替える方策こそが火急に求められていることである。

振り返ると、10月下旬、円相場は一時1ドル=90円台と13年ぶりの円高を記録した。この時点で、3カ月間で円高は対ドルで10%以上、対ユーロでは30%も高くなったという異常さだった。
この円高は、いうまでもなく昨年8月以来のサブプライムローン破綻につづく金融混乱によるものだが、今年9月、アメリ投資銀行の破綻をはじめとして世界に経済危機はいっそう広まり、資本主義は危機に直面しているとさえよばれた。その結果、株価も世界同時に急落、景気はさらに悪化しているのだ。

少し回り道すれば、景気後退局面にありながら円高になるのは、欧米の金融危機に比べるとまだ日本は痛手をこうむっていない、当面の利下げがない、経済余力がる−などの理由があるといわれてきたが、それ以上に、円キャリー取引の破綻が指摘されている。円キャリー取引とは、金利ゼロ台の円を借りてドルなどの外貨にかえ金差益を利用してかせぐ取引だ。長い間、日本政府と日銀がとりつづけた低金利政策の結果がそれを促進したことになる。
これに国際的金融機関やヘッジファンドなどが群がり、利益をあげてきたのだが、昨年の金融混乱によって損失を出したこれらが、この取引から手を引き始めたわけだ。保有していたドル、証券を売りに出し、円に換え損失補てんする。そのためにドル売り円買いとなり円高がもたらされる。

先にあげたトヨタの派遣打ち切りは、この異常な円高が国民のくらしに打撃を与える典型だといえる。輸入に頼り高収益をあげてきた大企業は、円高のために減益を予想する。それでも最大限の利益確保のために、しわ寄せを労働者、中小企業、国民に押しつける。結果、国民購買力はいっそう低下し、景気はさらに悪くなる。
景気対策は国民生活を第一に置いてはじめないと、この悪循環から逃れることはできない。これまで巨額な利益を貯め込んできたのだから、労働者や中小企業に還元すべきではないか。

以上の筋道を一つの方向だとすれば、政府や大企業がいま考え、とろうとしている方向は、消費税増税や労働者の雇用切り捨てであって、そのベクトルは正反対を向いているといわねばならない。
それでは、国民の購買力もあがらず、いっそうの景気悪化が待っているだけである。
(「世相を拾う」08230)