ガルブレイスの眼− 国民救済に政府は動け


昨日、平均株価が終値で7162円90銭を記録し、26年ぶりに最安値を更新したのにつづき、本日の東京市場は、午前の取引で前日終値比168円00銭安の6994円90銭まで値を下げたが、売り買いが交錯、荒っぽい値動きが続いている。

このような急激な円高・株価下落のなか、麻生首相は「市場安定化」をかかげて、緊急対策のとりまとめを政府・与党に指示した(参照)。
?株の空売り規制の強化(*1)、?公的資金注入枠を、2兆円から10兆円への拡大、?金融機関の株式取得制限の緩和などが検討されるという。結局、字面から容易に判断できるように、ようは、これらが銀行救済策であるということ、したがって、深刻な事態であるはずのこの事態の救済の対象がここにあるということは、すなわち麻生内閣の立脚点の所在がどこにあるのか、それをそのまま端的に示しているということだ。

昨日のエントリーで与謝野経済財政担当相が資金投入額について「10兆円くらい積んでもいい」と発言したことにふれたが、政権はこれをあらためて追認したことになるし、公的資金注入枠の拡大による銀行救済に余念がないことを裏付ける結果になった。

銀行救済に余念がないといったのは、一昨日もふれたとおり、この12年間に銀行への公的資金は資本注入だけで計12兆4000億円も注入されている一方で、中小企業への貸し出しが減少しているという事実があるからである。中小企業への貸し渋り貸しはがしの実態が浮き彫りにされただけで、その対策として資金投入が機能していないということである。


大学の先輩−私の事務所と同じビルに入居する民間研究所の研究員である−がきょう、一枚のコピーを私に差し出した。コピーは、「国民救済へ政府は行動を」と題した故ガルブレイス日経新聞掲載の一文だった。1998年10月9日付だからほぼ10年前の記事である。バブル崩壊後のものだ。
懸命な読者の皆さんならただちに察しがつくだろうが、ガルブレイスの結論は表題に尽きている。
記事には、冒頭に要約が以下のとおりごく簡単にまとめられていた。


  • バブルの生成・崩壊は市場経済には付き物であり、資本主義はその反復の歴史である。
  • バブルの崩壊・処理は無謀な投機の主体をあぶり出し、淘汰する点で「創造的破壊」といえる。不可避だが正常な調整過程だ。
  • バブル処理に重要なのは各国政府の役割。雇用調整などを通じて罪のない国民の救済を急ぐべきだ。

このガルブレイスの指摘を、今日の金融危機にたち至った今日に活かす立場で読み返すと、麻生政権が現局面でとる方向もまたみえてくるのではないか。
すなわちガルブレイスはいう。


破たんした企業を救済することでははない。前述したように企業の破たんは、経済の調整促進に役立つ。そうではなく、非難されるいわれのない国民の所得や雇用、福祉を改善・向上させることがより重要であり、それが使命になるからである。所得を消費に向かわせ、購買力を持続させるよう政策的に支援すべきである。

ガルブレイスは、機動力があって的確な判断力を備えた政府が欠かせないといっている。そして、賢明な政府に恵まれる機会は少ないとものべている。
これに、わが麻生政権が妥当するかいなかをここでのべるに足らないが、ただ明確なのは、麻生政権が少なくともガルベレイスの処方箋とは異なる別の道を想定しているということである。
つまり、国民を救済するのではなく、大銀行を救済するための。
内需主導に切り替えるのではなく、外需に依存する体質を依然、温存するための
麻生政権の緊急対策と言い切ってよいのではないか。


*1;株の空売りとは、証券会社から株を借りて売却し、その株が値下がりした時点で買い戻す事で利益を得る投資方法