世相を拾う(10月2日)


「花・髪切と思考の浮游空間」に以下の記事を公開しています。

やっぱり聖域にはふれない − 小沢代表質問

麻生の所信表明演説と小沢の代表質問をくらべ、小沢の一本などとの評定が出回っているのですが。そうなんでしょうかね。

国連の場で集団的自衛権の行使のために憲法解釈を見直すべき、麻生首相はこういって、米国への忠誠を誓いました。
集団的自衛権とは、いうまでもなく自国の防衛とは無関係の、他国の「防衛」に参加する行為であって、憲法9条が定める「自衛のための最小限」の実力行使を超えるものです。「憲法上認められない」(1981年の政府答弁)というのが現行の解釈でした。
麻生発言はこれを見直そうということです。

いっそうの米国追随を表明するにほかならない、国連での麻生演説なのですが、米国のために日本はいったいどれほどの軍事費をつぎこんできたのか。

消費税が導入されて20年になります。この20年で消費税の税収は188兆円といわれています(*1)。一方で、軍事費は、消費税導入時の3兆7000億円から年々ふえつづけ、19年間で増加額は累計で19兆6000億円になるのです。この間の法人税減収分が160兆5000億円ですから、あわせると180兆円となりますね。
額にかぎっていえば、消費税による税収は、法人税減税と軍事費にあてられ消えたといってもよいでしょう。

官製ワーキングプアが増えているんだって。

総選挙をめぐる話題から離れて、こんなニュースが伝えられています(参照)。
官製ワーキングプアという言葉が世に出て、熟してきたようです。もちろん狭義には、記事にあるような公務労働の場で、臨時雇いや非典型の、しかも年収が生保水準にも満たない労働者をさすのでしょうが。
いわゆる三位一体のカイカクの名のもとで、自治体の経営管理がことあるごとに取りざたされ、その結果、安上がりの労働者の配置が急速にひろがっていることを記事は伝えています。

概念を広げすぎてもいけないのでしょうが、元来、ワーキングプアは、たとえば低すぎる最低賃金による束縛、労働者派遣法にみられるような、使い捨てを強いるような環境によってもたらされると考えれば、そもそも官製につくり出された面をもっているのではないか。しかも、そんな官製の政策を強いてきたのが、ほかならぬ財界・大企業ではなかったか。

端的にいえば、生活保護基準と最低賃金の関係と現状の両者の不整合を一例にあげることができます。
2週間ほど前の「毎日」の社説です。

前進はしたが、まだまだ物足りない。08年度地域別最低賃金のことだ。都道府県ごとの地方最低賃金審議会の答申額が出そろった。

 労働者の生活を保障する最低賃金の改定が今回、例年に増して注目されたのは改正最低賃金法が7月に施行されてから初めての審議だったためだ。改正法は額の算定に当たり「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護との整合性に配慮する」との条文を盛り込んだ。

 働いても貧困から抜け出せないワーキングプアを解消する策の一つとして、最低賃金生活保護費を上回る水準にしようというのが、改正法の趣旨である。

 結果はどうだったか。時給の全国平均は07年度より16円引き上げられ、703円と初めて700円台に乗った。特に生活保護費よりも最低賃金が下回っているとされる12都道府県については、その開きを一定の期間内に埋めていくとの目標も設定された。

 小規模事業所の賃金改定状況を参考に前年度より1〜5円程度のわずかな引き上げで推移した従来のやり方に比べ、各地の引き上げ水準を明確に設定する今回の手法は、大幅引き上げを実現した点で評価できる。

 しかし、比較する生活保護費の水準設定には問題がある。生活保護費は市町村を6区分し、県庁所在地などの都市部の方が地方よりも高く設定されているが、比較で用いたのは都道府県ごとの平均額だった。これでは、県庁所在地で働く人の最低賃金がそこの生活保護費を下回るケースが出てきてしまう。

 生活保護の住宅扶助も、平均額が比較算定に使われた。東京の場合、その額は月3万5187円。しかし、労働者が東京で3万円台の安い民間の物件に住むことは困難だ。住宅扶助は自治体によって特別基準額が定められ、東京の特別基準額上限は月5万3700円。生活保護で低額の公営住宅を提供される人の支給額は下がるため、平均額も下がる。比較では特別基準額を用いるべきではないか。

 比較する生活保護水準をまるでトリックのように低い数字ばかり使うのであれば、引き上げるべき最低賃金も不当に抑え込まれてしまう。最低限度の生活を保障するという改正法の趣旨がゆがめられかねない。生活保護との整合性はまだ不十分と言わざるを得ない。来年度以降の審議で、水準のあり方を改めて検討してもらいたい。

 パートや派遣など非正規労働者の増大でワーキングプアが広がる中、最低賃金が果たす役割はますます重みを増している。今回の703円も、1日8時間・週5日働いて年収は150万円に満たず、貧困の解消には遠く及ばない。

 厳しい経営環境に直面する中小企業の活性化策などに、政府も積極的に取り組まなければならない。

小泉改革の残した傷跡が日本の社会のあちこちに露呈し、貧困と格差が日本を覆い尽くしています。最低賃金の改定はなおさら急務といえる。この社説は、妥当な着眼だと私は思います。

さて、国連の一般討論演説、そして所信表明演説で際立ったのは、麻生首相民主党への挑戦的姿勢という形をとっていますが、そこで強調されたのは、保守イデオロギーではなかったでしょうか。集団的自衛権行使をうたうべく憲法解釈を変えるとか、日米同盟と国連の関係をあえてとりあげてみたり、インド洋での補給活動の継続を強調したのは、当面の主導権を争う相手である民主党に揺さぶりをかける意味をもつのでしょう。民主党は逆に、麻生氏がとりあげた「争点」で党内に一致できない現状があることを示しています。

所信表明演説は、首相のいわば特権で大きく構想を語るのが常なのでしょうが、慣例を破って、当面の相手に白羽の矢をあて、局面を自らの有利に導こうとするものにほかなりません。保守層のなかに、民主になびきかねない旧来の自民支持者を回帰させようとするものといえるのかもしれません。

こんな同じ器のなかでのこうした主導権争いより、最低賃金の改定、生活保護水準の改善がいまの日本社会に求められているのはいうまでもないことなのですが。
(「世相を拾う」08191)