裁判員制度は動きだせるのだろうか。

まずは、最高裁判所の説明から。

http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/index.html

平成16年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が,成立し,平成21年5月21日から裁判員制度が実施されます。
裁判員制度とは,国民のみなさんに裁判員として刑事裁判に参加してもらい,被告人が有罪かどうか,有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決めてもらう制度です。
 国民のみなさんが刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民のみなさんの信頼の向上につながることが期待されています。国民が裁判に参加する制度は,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア等でも行われています。

一方の日弁連

日弁連は、1990年5月25日の定期総会において、「司法改革に関する宣言」を採択し、このとき初めて日弁連として「国民の司法参加の観点から陪審や参審制度の導入を検討」すべきであることを宣言しました。
1994年5月27日の定期総会においては、「司法改革に関する宣言(その3)」 を採択し、司法改革実現のための3大目標の1つとして、「陪審や参審など市民が直接司法に参加する制度を検討し導入すること(市民に開かれた司法の促進)を設定しました。(参照

こんなふうに日弁連もすでに20年ごど前ら、国民の司法参加の観点から導入すべきとの見解を打ち出しています。
立法、行政、司法に国民が参加できる条件を広げる方向を望みますので、裁判員制度には私は賛成です。
でも、仮に選ばれていざ、という段になると、こんな問題が起きる?

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080911-OYT1T00792.htm


記事が伝えるのは、選ばれたものを雇用するという企業側の態度ですが、サラリーマンであれば誰もが直面するハードルです。
しかし、私が思うのは、はたして企業が態度を決定できるかというところ。

会社を休んだ場合の賃金については裁判員法に規定*1がなく、各企業の判断に任されているが、74社は有給休暇にすると答えた

と記事はいうのですが。


「原則として裁判員を辞退できない」という制度にかかわって、裁判員に選ばれた労働者が裁判に参加する意思がある場合、もちろん仕事を休まざるをえません。
その場合の請求する「休み」が公休になるのか否か、の問題であって、企業側は決めることではないと考えるのです。
「公休」とは、いわゆる「休み」(休日)を意味しているでしょうから、労働者からすれば労働義務を免除された日ということになる。

労働基準法同7条は、

使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての 権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げのない限り、請求された時刻を変更することができる。

と定めています。一方で裁判法は、

労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。(同100条)

としているのですから、どうやら裁判員に選ばれた労働者歯不利益をこうむることなく、その扱いは公休になると解してよいようですね。

ですから、話を戻すと、記事のように企業はうんぬんできない。
「民間の調査機関・労務行政研究所」とやらがあたかも企業が態度決定できるかのように設問する。新聞が、休暇や賃金などについての企業の態度を聞く調査を鵜呑みにして載せる、そして企業も問われてイエス、ノーと何事もないかのように回答する。
これらは、裁判員制度にたいする不理解が存在していることを表していますね。
一部では、各政党のこの制度にたいする見解が取りざたされているように、政党でさえもこの制度にたいする認識は十分ではないようです。小沢一郎の、裁判員裁判は「日本の風土にあわない」との発言は失笑ものですね。

私には、裁判員制度に反対する理由は見当たりませんが、しかし、制度を実効あるものにするためには、まだまだ条件が整っていないのは上の事実で明らかです。
労基法7条や裁判員法の趣旨を徹底することもふくめて、政府・最高裁判所の広報活動が不十分なことの反映です。

読売新聞の記事はこの点で、誤解を広げることになりかねません。あるいは、本音は、同制度に反対ということかしら...。

*1:裁判員には日当が支払われます(裁判員法11条)。日当は1万円以下の範囲で定められるといわれているようです。だから、使用者は有給を保障する必要はない。