医療崩壊の経済
救急医療の現状をとらえた産経新聞の連載が終わる。
【風】医療費抑制策が崩壊招く?
今回のタイトルがいわば結論だろう。
疑問符がついている。が、現状をみるかぎり疑問符なしでよさそうだ。
今回の記事は、ある開業医の意見を進行役として進められている。
この医師の意見を列記すると以下のようになる。
この間の、メディアもふくめた議論の深まりによって、おおかたコンセンサスを得ている意見だといってよい。
- 国が進める医療費の抑制策が、医療崩壊を推し進めているのではないでしょうか
- 病院の収入は減少し、全国で自治体病院が赤字で閉院に追い込まれています。この10年、給料は上がらないのに仕事は高度化されて専門性は増し、責任は増えるばかりです
- 先進医療は当然高度な設備を必要とします。しかし医療費の抑制で収入が減り、特に救急医療はやればやるだけ赤字が増えるのが現実です
- 24時間最高の医療を求めるならば、医療費が増大するのは当然です。当直医に複数の専門医をそろえ、看護師やレントゲン技師も充実させなければならないからです
- 国が補助を減額したばかりに国民の負担は増加し、病院窓口で支払う金額は増えるばかり。国は負担を減らす一方で国民には増やし、病院には収入減の政策です。これでは、現在の医療水準を今後維持することは不可能です
- 夜中に緊急手術で呼び出されても、わずかに上乗せされる程度です。ここから医師2人と看護師2人の人件費と、手術材料費を出さなければなりません。その上、翌日は通常の勤務が待っています
- 専門性が高く、消化器外科でもできる人が少ない膵臓(すいぞう)がん手術でも、部位によっては30万円ちょっと。車の車検に20万円くらいかかるご時世に、命の値段はこの程度です。お金かコネがないと、手術待ちが半年なんて時代は、すぐそこまで来ています
このうちのいくつかの点について。
『クローズアップ現代』がみた自治体病院の今。で、自治体病院の窮状を扱った。
そこで、つぎのようにのべた。
経営的手法を迫るだけではない。総務省はまた、医師確保や効率化推進の方策として、自治体病院の再編・ネットワーク化に着手している。これは、地域の医療圏の中核病院に医師を集約化し医療機能を充実させる一方で、その周辺の病院は医療機能を縮小し、後方支援病院・診療所にするというものだ。だから、再編・ネットワーク化は、中核病院のある地域の住民には恩恵を与えるものの、縮小される地域の住民は医療水準が後退する。地域間で医療格差はむしろ拡大する。
住民に近いところで、かゆいところに手のとどく医療を提供することに従来の自治体病院の役割があったとすれば、総務省が考えているネットワーク化は、ちょうど対極のものだといえる。従来の姿が一つひとつの糸はたしかに細いが、網の目のように住民にちかいところまで広がっていたのに対して、太くはあるが、しかし目の粗い連携網をつくろうとしているわけだ。こうたとえることができるだろう。
民間ではやれない、不採算部門も担ってきた自治体病院。
地域住民からすれば、それだけに欠くことのできない医療機関であったはずだ。
けれど今、上のように再編・縮小の危機にさらされている。
救急医療は、多くの医療従事者と、高額な医療機器、検査機器を要する。だから、医療費は必然的に高くなる。
24時間対応となるとなおさらだ。
記事に登場する開業医が語るように、医療費削減のなかで不採算の度合いはいっそう進んだ。
しかも、経営的にも厚い人的な体制などのぞめない上に、患者の側の高い要求にこたえるために医師をはじめ医療従事者は疲弊していく。
公表されるのは地域から救急対応の医療機関が減少するデータばかりだ。
わずかな呼び出し手当てで、四六時中、よびだしの連絡に追いかけられる精神的緊張は、医師でないと分からない。
結局、臨調「行革」以来の社会保障費抑制政策のなかでも一つの柱に位置づけられた医療費。
社会的入院などという言葉は、長期に入院する高齢者の医療費を抑えるために使われた。故渡辺美智雄がいった「老人に金をかけるのは枯れ木に水をやるようなもの」はあまりにも有名になった。
医療費の構成という別の角度から日本の医療費をみてみると、諸外国とくらべて、特に日本が際立っているのは、薬剤費と医療機器である。別のいいかたをすると、薬品メーカーと医療機器メーカーは大もうけをしていることになる。
外科系学会社会保険委員会連合*1のホームページでは、つぎのようにのべられている。
31兆円余りの医療費のうち、約8兆円が薬剤の費用、約2兆円が医療材料に使われています。保険で使われている薬剤の価格は世界一高く、また医療材料の価格も外国と比べて大変に高く設定されています。
http://www.gaihoren.jp/gaihoren/public/medicalcost/html/index.html
トータルにみると、医療費抑制策が崩壊招くという考えに首肯せざるをえない。
抑制とは、医療機関と患者にとってのそれであって、しかも患者は負担増を迫られてきた。
低く抑え込まれた医療費によって、人はふえず、医師も、看護師も疲れきっている。
しまいに医療の現場から立ち去っていく。
医療がついに成り立たなくなる。
今、日本の各地で起きているのは、簡単にのべると以上のようになる。
犠牲になるのは、患者国民であって、医師であり、看護師だ。一人、高笑いなのは、一部の大製薬メーカー、医療機器メーカーであって、彼らの利益確保は温存されてきたといえる。
医療費の総額はこうして抑制されたきたのだが、彼らのもうけ口はちゃんと確保されている。