雇用不安・生活不安− 内部留保を取り崩せ


暮らし「苦しくなった」54%に急増…読売世論調査

およそ半数の人が暮らし向きを「苦しくなった」と思っているということです。記事にあるように、1年半前の前回調査と比較すると、苦しさの実感が国民の間に確実に広がっていることが分かります。

その背景は、産経新聞が3月、以下の記事で整理をしている、さまざまな指標にあるとおりでしょう(参照)。産経があげているのは、2月の経済統計でした。

  • 完全失業率4.4%(前月比0.3ポイント上昇)
  • 有効求人倍率0.59倍(前月比0.08低下)
  • 非正規労働者の失職19万2061人(2月調査比3万4255人増)
  • 内定取消者数1845人(2月調査比271人増)
  • 雇用助成金支給対象者186万5792人(前月比2.1倍)
  • 現金給与総額26万5701円(前年同月比2.7%減)
  • 1世帯当たり実質消費支出26万6044円(前年同月比3.5%減)
  • 新設住宅着工戸数6万2303戸(前年同月比24.9%減)

   ※非正規労働者の失職者は6月末までに職を失うか失った人数

ようするに、雇用が日本の抱える最大の問題になっている。事態はさらにすすんで、ますます悪化している指標がそれを伝えています。

昨年10月から今年6月までに職を失ったか、失う非正規労働者は20万人を突破した。失業の波は正社員にも広がる。3月の有効求人倍率は0・52倍まで落ち込んだ。52人の求人に100人の求職者が群がっている状況だ。3月末は例年でも失業者が急増する。100年に1度の不況が重なり、失業者があふれる「年度末危機」が危惧(きぐ)されたが、その懸念が現実となった。
【雇用不安最前線】(上)「仕事がない」 失業が招く貧困の連鎖

厚労省の調査では、雇い止めや解雇された離職者約7万のうち、再就職できたのは2割にとどまっているという。「貧困」は確実に広がっている。

 親の貧困によって高等教育を受ける機会を失えば、子供たちも低賃金の労働に甘んじる可能性が増す。昨年末、私立高校生の授業料の滞納は2万4500人に達し、昨年3月末に比べ3倍も増えた。貧困が貧困を呼ぶ負の連鎖はすでに始まっている。

そして記事はこうしめくくっています。西欧諸国が強い政府の介入で、生活不安を取り除こうとしているのと比較すると、日本政府の対応は、その実効性をはじめ、いかにも弱いという印象をぬぐえません。


所得格差の問題が議論され、「格差の固定化」を回避するための政策を進めることで一致した。雇用がさらに悪化しかねないなかで、貧困・所得格差は今後一段と広がることが予想されており、政府にもう一つの課題を突きつけている。

減益という決算結果だけが大々的に宣伝されるわけですが、大企業は依然、体力を持っていないのでしょうが。この点では、マスメディアも、企業の言い分をもとに読者にはこんな伝え方をするのです。

非正規社員の雇用を守る手段として、企業が過去に蓄積していきた「内部留保」に熱い視線が注がれている。労組関係者だけでなく閣僚までが内部留保の活用に言及するが、企業側は「自由に使える現預金とは違う」と否定的だ。内部留保は、雇用維持の「財源」になりうるのか

08年9月末で12兆6000億円の連結利益剰余金があるが、多くは生産設備の増強などに回っており、現預金で残っているのは1兆9000億円。巨額に見えるが、同社(トヨタ=引用者)の売上高の1カ月分だ

企業は内部留保を現預金でもっているというわけではありません。記事のいう1兆9000億円の現預金は、支払いのための資金です。余裕資金はむしろ少しでも利回りのよい資産として運用されているのが実態でしょう。
現に、トヨタでは、現金及び現金同等物1兆8506億円、定期預金507億円、有価証券(流動資産中)6831億円、有価証券・その他の投資有価証券(固定資産中)3兆538億円で計5兆6382億円となります。なかには持ち合い株など売りがたいものも入っているでしょうが、これがいわゆる余裕資金でしょう。
なんと上記記事のいう12兆6000億円の連結利益剰余金の44.5%が余裕資金なのです。
だから、トヨタはしばしばトヨタ銀行などとよばれてきたのです。現にトヨタは定款にも金融業を加えたほどです。

トヨタだけでなく日本の大企業は、下請企業と働く労働者によって多額の利益をあげてきました。その結果、蓄積されてきた内部留保(の一部)を取り崩し、雇用を守り、労働者に依拠してこそ「危機」を乗り越えることができるのではないでしょうか。内部留保は雇用を守るために使われるべきであり、可能なかぎりの努力が払われてしかるべきでしょう。政府は、口先だけでいうのではなく、そのための強力な指導が求められているといわなければなりません。