「友」だって切り捨てる− 民主党の海賊法案対応にみる

海賊法案修正、民主が与党と協議へ 社民抜き

民主、国民新両党は17日、今国会で審議中の海賊対処法案に関し、20日から与党との修正協議に入る方針を決めた。民主、社民、国民新3党での協議で、社民党自衛隊の海外派遣に難色を示したため、3党合同の修正案づくりは断念した。民主党が求める自衛隊派遣の国会事前承認について、政府、与党内には否定的な意見も強い。来週中の衆院通過を目指す与党が衆院再議決を視野に修正を拒否する可能性も。

ここにきて案の定、民主党のビョーキがでてきました。妥協を探ろうというものでしょうか。
昨日でしたか、審議引き延ばしをいたずらにやるつもりはない、ただ対決すべきはするという趣旨の菅直人の発言が報じられていました。予防線をはっていたのですね。
妥協といえば、かつて歴史的妥協という言葉がありました。当時、3割近い得票のあったイタリア共産党の書記長・ベルリンゲルが、与党のキリスト教民主党との協調を打ち出しました。もちろん連立政権を視野にいれたものでしたが、結果的に実現はしなかった。
この歴史的妥協と今回の妥協を比べることにすでに無理がありますが、それにしても民主党自民党との協議でかちとろうとしているものはそこそこの価値あるものなのでしょうか。しかも、本心は横に置くとして、政権交代のために協力しようと誓い合ってきたはずの「友」をおいてけぼりにしてまで。そもそも「友」として扱おうという気があったのかさえ、疑いたくなるものです。

民主党は、派遣前の事前承認を獲得目標にしているのでしょうが、それ自体、自衛隊を派遣することを前提にしている点で、そして武器使用の緩和という点でも自民党案と何らかわりはない。

自衛隊の武器使用は、少なくともこれまでは「緊急避難・正当防衛」でしかできなかった。それを、海賊行為という犯罪行為への対応で任務遂行のための武器使用を認めてしまうと、武力紛争への対応でも同じ事態がつくられるわけで、海外での本格的な武器使用に結びつく懸念を指摘せざるをえません。歯止めのない武器使用をこうして認める背景には、自民も民主も同じように派兵恒久法をめざしていることがあります。

戦後の日本政治は、日米安保条約自衛隊の役割が常に議論の対象になってきたということは否定しがたいものでしょう。この点では、民主党の党内の現状と社会党のこれまでの主張をみれば、この海賊問題を契機に、自民党と同様に自衛隊の海外派兵と武器使用を認めようとする民主党が社民などと共同修正案を出そうとするところにそもそも胡散臭さが漂っています。結果、民主党はこの問題で社民を切り、自民党との合意をとりつける道を選んだということになるといえます。

政権交代がクローズアップされ、ともすればパーフォマンスとも思えるような対決姿勢が喧伝されもことも少なくありません。けれど、現実には、このようにベースのところで自民と民主が基本的な方向で一致している。このことを無視することは私にはできません。政権交代のためには、有権者向けにちがいが明確でなければならず、しかし一方で、「円滑な」交代のためには自民党と基本線で同じあることもまた認識されなければ実現不可能にならざるをえない。ここのところに、民主党のいう政権交代の最大の矛盾があると私は思います。

そして、小沢氏の西松献金問題にみられるように、現実には、ちがいが明確になよというよりも、基本的には同じだということがより明確になっている。この問題の同党の対応にも、それが鮮明にみえてくるのです。
(「世相を拾う」09081)


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