労働者の敵とは− 城繁幸の場合


あの城繁幸がまたぞろ、書いています。ほとんどデマゴーグの域を出ないと私は思います。
しょせん登場しているのは『Voice』なのですから、割り切ってよいのかもしれませんが、それにしてもひどい内容です。彼が、つい先日は、たしかテレビ朝日に出演していたのですから、受け入れるメディアも相当、右派(といえるのでしょうか?)に甘く、右傾化しているといえなくもないのでしょうが。

城が書いているのは、全体が4つの部分からなる「労働組合は社員の敵」という文章です。タイトルからしてすでにいかがわしさが漂うわけですが、さて、この城がのべる論点をいちばん最初のパートからひろってみました。これだけあります。それぞれにできるだけコメントを入れてあります。

1.「派遣さんがかわいそうだから派遣なんてなくしてしまえ」

派遣切りは、企業が可能なかぎり利益確保を維持できるように、ダメージを最小限にとどめようとした行為なのですから、城の表現にしたがってみても「派遣さんがかわいそうだから派遣なんてなくしてしまえ」と言う具合に、派遣切りに批判的な勢力が考えていたわけではありません。財界・大企業が自らの権益確保をめざす上で、手っ取りはやいのが派遣労働者を斬ることでした。逆に、これに反対するものは、かわいそうだから(派遣を)なくしてしまえと訴えているのではない。派遣労働者にとっとは、解雇は災害以外の何者でもなかったのではないでしょうか。
以下の論点の3にある2009年問題があったとしても。しかし、これとて偽装請負に批判が高まり、その結果、派遣労働者の3年の期限で(企業にとっては)「足枷」がかせられたにすぎません。城はこれを企業が被害者であるかのように表現しているのです。紀元後、雇用しようと思えば正規雇用に転換すべき、3年という期限が迫った派遣労働者の処遇を前に、非情な解雇に出ているのが企業側であることは明らかです。彼らの労働で利益確保の条件をつくりあげてきたというのに。

2..小泉政権は格差を縮小したわけで、仮に共産党がいうように1999年以前にまで派遣法を再規制したとすれば、さらに100万人は失職者が増えることになる

格差を縮小したと城がいくら強気にでようと、何らその根拠が示されているのではありません。規制緩和でどのように大企業の経営が転換され、労働者の賃金・雇用条件が変化したのか。つまるところ、企業は正規雇用を非正規に置き換え、かれらのいう総額人件費を低く押さえ込むことによって利益確保を図ったということにすぎません。

3.「派遣雇用して3年たったら直接雇用すべし」という“3年ルール”回避のための便乗切りが相当数含まれている(期限終了とともに契約終了するとバッシングされるため、どさくさ紛れで解雇している

上記1の項を参照ください。

4.抜本的な原因療法とは何か。それは、正社員と非正規雇用労働者のダブルスタンダードを解消することであり、つまるところ正社員の既得権にメスを入れ、労働市場の流動化を図ることである

つまるところ、正規から非正規という転換を図ってきたのは、企業にほかなりません。労働者が正規と非正規の雇用をあらかじめ了解していたのではありません。よく同一労働同一賃金という原則がもちだされますが、同じ労働をさせておいて、異なる処遇で対処したのは企業側にほかなりません。まさに、作為的にダブルスタンダードが持ち込まれ、それによって支配を貫徹する手法がとられたのではないでしょうか。一部の労働組合がこれをよしとしてなびいていったように。

5.日本の正規雇用は、「解雇権濫用法理」と「労働条件の不利益変更の制限」によって事実上いかなる解雇も賃下げも不可能であり、バブル崩壊後は維持不可能な代物だった。非正規雇用の拡大とは、総人件費を抑制したい経営サイドと、既得権を死守したい労組が共に進めてきたものであり、それは連合・高木会長自身も認めている事実だ。規制を復活したところで、正社員の椅子が増えるわけでないのは明らかだろう

日本の労働環境を歴史的にふりかえってみる必要があります。
そもそも、日本で正規雇用が守られてきたのは、とくに西欧諸国と開くすると一目瞭然なように、貧弱な社会保障存在と無縁ではありません。西欧が、その点で手厚かったのに比して日本でそうでなかったために、終身雇用制・年功序列が昨日してきた。高度成長期以後、定着してきたこの制度は、まさに子どもの教育等、負担の大きい中堅・中高年層に相対的に厚い仕組みであって、その限りで合理的でもあったといえるでしょう。
それは使用者・企業の雇用政策としても役割を果たしてきたのです。
今日、内外の状況変化のなかにあっても最大限の利益を追求する上で、企業が採った選択肢が終身雇用制・年功序列に手をつけ、可能なかぎり正規から非正規へ転換させることでコスト削減をめざしてきたのです。

6.金銭解雇も含めた正社員の保護規制を緩和し、現在は非正規側にすべて押し付けられているコストカット圧力を労働者全体で分かち合うべきだ

裏返しにしていえば、城は、喧伝されているワークシェアと同様、いっそうの賃金削減に目をむけているということです。「非正規側にすべて押し付けられているコストカット圧力を労働者全体で分かち合うべき」という言葉に端的に表現されていますが、「分かち合う」という耳障りのいい、きれいな言葉には、低いほうに賃金をあわせていくという意図が隠されているといいきってよいでしょう。

7.切り捨て前提で単純作業ばかりを与える必要がなくなるから、非正規雇用サイドでも職歴を磨くことが可能となり、階層の固定化は避けられる。また直接雇用のコストが下がるため、派遣会社を排除して直接雇用にシフトしようとするインセンティブも高まるだろう
労働者の収入も増えるし、多重派遣や雇用保険の回避といった脱法行為も抑制できると思われる。

行間を読む必要があります。
「切り捨て前提で単純作業ばかりを与える必要がなくなる」とは、非正規に現在の正規雇用労働者と同様の仕事をさせるという意図を吐露したものです。
いっそうの正規から非正規への転換がもくろまれるということにすぎません。そんなより低い賃金にシフトした上で−城はこのことを「直接雇用のコストが下がる」と表現していますが−、「直接雇用にシフトしようとするインセンティブも高まる」といっても、これこそ名ばかり正規というそしりを免れない事態がつくりだされると推測してもまちがいなさそうです。

西欧とちがって、日本では、脆弱な社会保障セーフティネットの未整備の現実があることを無視するわけにはいきません。正規社員がこれまで「守られて」きたのは、こんな現実が一方にあったからでしょう。正規社員がひとたび解雇されたら、それこと湯浅誠氏がいうようにすべり台からすべきおちるという、避けようにない現実にあるのも日本です。
すべり台社会を駆け落ちるしか選択肢のない日本社会では、まず雇用がまもられる必要があるのではないでしょうか。
その点をまったく考慮しない城の議論は乱暴にもほどがあるといえましょう。こんな城に執筆を許す『Voice』の水準は推して知るべしということでしょうか

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