保守政治の右往左往


麻生政権のていたらくは、首相自身の発言の撤回の繰り返しや最近の中川財務相辞任の引き金になった酩酊会見に象徴的に表現されている。極まったという感じが強い。誰もがあきれ、自民党を見放しているという雰囲気だろう。自民党の行状にたいする国民の感情と意識の一端は、各種の世論調査による支持率にも反映されている。急落し、過去最低に近い状況にある。

こうした自民党政権のガバナンスの低下は、もちろん情勢を反映しているだろう。たとえば、ほとんど誰もが自民党の次期選挙での敗北を語っているのだから、危機感が募る一方で、あるいは自民党に見切りをつける者がでてきてもおかしくはない。渡辺嘉美の行動もこの論脈でとらえることができる。
かつての自民党はしかし、窮地に立っても反転する力を内包していたはずで、いつのまにか盛り返すのが常態ではなかったか。そうではなく、小泉以後の自民党政権は、しばしば右に寄りつつ左に戻り、蛇行を繰り返している。こうした、外からみるとほとんど筋のとおっていない国会運営、内閣の管理能力の低下、党内の明らかな不一致は、小泉内閣を節目として、急激な変化をとげているようにみえる。
私は、長期的な自民党の勢力低下が根底にあると考えているのだが、しかし、一方で、確実に小泉後に低落が加速されたと思う。

いうまでもなく、そこに小泉構造改革の傷跡をみてとることができるだろう。さまざまな面で国民生活を襲い、その歯牙にかかったものは少なくない。その結果を、07年の参院選にみることができる。この選挙で民主党はまさに勝ちをさらっていったのだった。

以上が、政治の、とくに政党間の消長に端的にあらわれる表層だとすると、その深部では、権力を維持しようとする勢力のとるべき選択肢がいよいよ限られ、ゆきづまりに直面している。参院選後の後期高齢者医療制度では制度的修正はいくども重ねられてきたではないか。そして、国会の論戦のなかでの労働者派遣法でも、派遣切り問題でも、政府は右往左往をするばかりではなかったか。

自民党政治というものは、大企業の要求をいかに政治に反映するのか、米国の要求をいかに日本の政治に具体化するのか、平たくいえばこの2点を基軸にすすめられてきた。大企業優遇、米国追随といわれるように。
全体の一部を優遇するということは、片方で異なる一部を冷遇するということだ。その片方の部分は圧倒的であって、すなわち国民であった。新自由主義、あるいは構造改革なる路線は、それを徹底するものであった。その過程で、従来の自民党の支持基盤といわれてきた農業、医療などの階層を切り捨てることも、自民党にとっては、自らの政権を維持するために避けてとおることのできない課題であったのだ。自らの政権を維持するために、自らの(支持)基盤をも切り崩すという逆説。その上に今日があるだろう。そして今や、大企業と米国にのみ身を寄せた政治が熟したともいえる。
その熟した結果が、世界金融危機のなかでの日本の姿に表われている。

話をかえると、一般には自民党の敗北が濃厚視される以上、その相手、勝者となるだろう者がいる。もちろんそれは民主党にほかならない。
その民主党もまた、従来から同党が抱えてきた矛盾を、露呈せざるをえないということだ。
矛盾とは、自民党政治を維持しようという勢力によって考え出された二大政党政治という枠組みに規定される政党がはらむそれだということである。結局、権益を守ろうとする側に財界・大企業と米国があるとすると、この両者は、従来の自民党(政権)と本質的には同じ政権を志向せざるをえない。だが、政権交代を得ようとすれば、従来の政権担当政党とは異なる政策、考えを提起して国民の支持を得る以外にはないだろう。そもそも財界・大企業と米国の意向にそった二大政党であって、たとえ二党間にちがいがあったとしても、せいぜい財界・大企業と米国が認めうる範囲のものにすぎないという程度のものだ。似て非なるものではなく、非にて似るものである。

だから、つぎのような例にことかかない。同じような問題はおそらく頻発するだろう。

小沢代表の第7艦隊発言、民主「党の見解でない」と釈明

小沢氏の発言は自民党と本質的に少しもかわらないものであって、あわててこれを打ち消しにかかったというわけである。「党の見解でない」と釈明するのが民主党なのだが、党の見解とはいったい何か、それを明確にすることはおそらく困難だろう。それは以前のこの事実からも容易に推測できるではないか(参照)。

つまり、ここでいいたいのは、右往左往はひとり自民党だけでなく、民主党も右往左往しているし、今後も右往左往するにちがいないということだ。
別の言葉でいえば、右往左往するのは自民党政治であって、自民党政治という枠組みに収まるのは自民党だけでなく民主党もふくまれるということにすぎない。
メディアがおいかけ、報道する多くは、自民党のていたらくや交代を希う民主党の矛盾なのだ。