日医の認識は発展したのか−権益と支持政党


日医がいわゆる圧力団体として、これまでふるまってきたのはよく知られたことでしょう。当時、資金が潤沢で、対有権者に影響力をもつ職能団体としての日医は他にかえがたい存在であったことは、誰もが認めることでしょう。しかし、その日医も、あの武見太郎氏が退いて以降、かつての力はどこかに消えうせたかのように私には映ったものでした。

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この日医と自民党の関係は記事にまつまでもなく明確なものでした。健康保険法の改悪ではかつての日医も、あるときにはストライキを打つなどの過激な方針すらとってきたのでした。しかし、その戦術に極端ともいえるほどの戦闘性迸るものが感じられるにもかかわらず、こと選挙戦になると、自民党の有力な支持基盤として存在し続けてきたのもまた事実ではなかったでしょうか。

この日医と政権党たる自民党との関係性に変化の兆しが見え始めるのは、それほど古いことではありません。医療制度が単発的に改悪され、患者の受診抑制が予想されるときには、日医は大々的に反対のキャンペーンをはってきました。医療を受ける権利が阻害されるという国民の思いと、患者減になっては個々の(医院)経営の基盤が揺らぎかねないという医師の思いが、健保改悪反対という一点で一致するという、共同可能なベースがそこにあったからです。

しかし、いつの日にか、こうした一点での共同から、いわば恒常的に、あるいは構造的にお互いが、国民と医師が同時に苦しめられるという時代に突入したはずでした。それは、政権党が、社会保障制度にたいする抑制を基本路線として選択したときにはじまる。つまり、恒常的に削減の対象に社会保障があがったとき以降、医師として、(医療機関の)経営者としての立場が否定されると感じ取ったときから、日医の自民党離れがはじまったといえるのではないでしょうか。
それは長くスパンをとると、臨調行革からといえるでしょうし、最短でいえば小泉構造改革ともえいるかもしれません。ともかく、自民党社会保障削減を基本路線ととったとき、日医の自民党離れは進んだといえる。
いいかえると、その選択は、少なくとも日医側に起因するのではなく、自民党側にある。日医は、自民党ではない政党に向かわされたということになる。

以前のエントリーで、新自由主義構造改革とは、90年代までの日本社会の安定を形づくってきた条件を切り捨ててきたことに言及しました。日医もまた、その条件の一つだといえる。現場で、敗戦後から高度成長期をとおして日本の医療制度を支えてきたのが自由開業医制度であったとすれば、開業医たちはまさに現場の働き手であったといえる。診療報酬が年に2度改定させるときもあったほどに、政権を担う自民党と高度成長を支え続ける労働者の健康と対面してきた開業医の、記事の表現を借りれば蜜月が続いたのです。利益誘導型の政治がここにあったといえます。

こんな経過があっての、記事にあるような日医の対応の変化です。
私は、今日の社会保障切り捨てにたいして、日医が明確な反対の意思を表明していることに敬意を表します。社会保障切り捨てが単に日医会員の権益に反するというだけでなく、国民全体にとって少なからぬ影響を及ぼしてきたし、及ぼすからであればこそです。そして、今日、日医は各層との共同にもけっして消極的ではありません。

しかし、このように積極的な側面をもつにもかかわらず、その上で、日医の記事にある対応に疑念をもつのです。
それは、これまでの蜜月時代の日医のとってきた対応とこれがどれほどの違いがあるのかということです。日医にとってのこれまでの自民党が、記事によるかぎり民主党にかわった、転移したということにすぎないのでは、だから日医の認識の発展がはたしてあるのかということです。
どうも、私にはないと思えるのです。

社会保障切り捨てに反対だという点で、政党を選択するのであれば、それはイコール民主党という結論にはならないでしょう。民主党社会保障切り捨てに反対か否か、それはよく吟味しないといけません。記事にもあるように、そうではない可能性を私ははらむと考えるのです。だから、社会保障を切り捨てたのが自民党であるのなら、自民党ではない民主党(を選択する)という筋道には必然性はまったくない。ようするに、日医のこの選択は、力のある政権党こそ支持すべきというかつての認識とおそらく、少しも違わないものでしょう。昨年、県医師会執行部の先生と懇談しましたが、その際、自民党の政策に反対だが、それでも政治は政権党でなくてはならないといわれていたのが印象に強く残っています。同じような認識は、いよいよ政権交代がささやかれるとき、自民党ではない民主党への転移という、いいかえると消極的な変化を志向するという一点に接続されているのではないでしょうか。

何よりも、いっこうに変わらないのは日医と渾然一体化している政治連盟をいくみをつかって、会員に支持政党を押し付けるという態度です。自民党であれ、民主党であれ、政党支持を会員に強いることになれば、同じことでしょう。日医、あるいは同政治連盟がそれに一切ふれないのは欺瞞以外のないものでもないのでしょうが。
わが日本では、労働組合に端的なように、たとえば職能団体において、組織的に支持政党を決め、それを構成員に押し付けるという団体の風習が少なからずいまだに残っていることを指摘せざるをえません。
要求で一致する団体が、構成員を支持政党で束ねるような愚はただちにやめなければなりません。
そこから抜け出せない日医は、その意味でも認識の上で進歩したとはいえないと私には思えます。