読売、解雇労働者の「生活保護」受給に水


おそらく今後、さらにふくれるであろう解雇、雇い止め。あの三池闘争の発端になった当時の解雇をはるかに上回る人数です。
当時と異なるのは、経済のグロバール化と新自由主義的な展開のなかで、企業が国内の消費より海外を重視した結果、一転、不況の深刻化のなかで解雇がうちだされていることです。一方で、当時も、今も変わらないのは、企業というものが常に労働者を使い捨て、犠牲を押し付けようとしている姿です。

そうであるからこそ、労働者にとってはまったく身に覚えもない理由で首を切られ、職につくことも、住まいも奪われ、結局、生活を奪われることになるわけですから、彼らこそは社会的に保護されなければならないと思うのです。

こうした私の考えが間違いであるかのような印象を与える記事に遭遇しました。読売新聞の本日30日付の記事です。
生活保護不正受給、過去最高の91億超…読売調査

記事が紹介する同社の調査は、はたしてどんな意図をもって実施されたのでしょうか。そこに私は疑問をもちます。
読売が扱うのは生活保護の受給について。社会的に保護されなければならないと考える私は、生活保護を今の時期こそ発動しなければならないと思う。
記事は、なるほど、昨今の情勢からみて生活保護が増えるだろうと見通してはいるのですが、その関心は、しばしば扱われる不正受給でした。結局、文脈からすると、この不正受給が生活保護の拡大を妨げる要因になる、こう指摘しているに等しいものです。不正受給の実態があろうとなかろうと、生活する術を立たれた解雇者について、セーフティネットが機能しなければなりません。
この点でまず、記事の着眼そのものに強い疑念をもたざるをえません。

ところで、生活保護費は、厚労省調べによる限りつぎのようです(参照)。厚労省データをもとに表を作成しました(注;単位は世帯・千、保護費総額・億円)。
世帯あたりの保護費を算出すると、表の4年間に徐々に世帯あたりの金額は低下しています。

年度 被保護世帯 生活保護費総額 額/世帯
2001 805 20,772 2,580
2002 871 22,181 2,547
2003 941 23,881 2,538
2004 999 未公表 未公表
2005 1,042 未公表 未公表
2006 1,076 未公表 未公表
2007 1,105 未公表 未公表

読売調査によれば不正総額は、総額91億5813万円、件数(07年度)は1万5993件。ですから、不正の発生率は1.4%、額は、直近の数字が得られないために03年度総額で置き換えて算出した場合ても全体の0.4%にすぎません。
確実に私たちが知らされているのは、今回の解雇・雇い止めが8万5000人に及ぶだろうという予測が今あること。彼らの全員が再就職が不可能であるかどうかにかかわらず、少なくない労働者が生活の道をたたれるだろうということは容易に想定される。不正の発生をはるかに上回る生活保護を受給してしかるべき人びとがそこにいるということなのです。
今、必要なことは、彼らを路頭に迷わせることがないようにすることです。すぐにでも公的な支援策を実行に移すことです。もちろん解雇しようとする大企業に撤回を求め、責任を果たさせる課題が重要であることは論をまちません。
読売のように今の時期に不正を問題視することが、労働者支援にどれほどの意味をもつのか。むしろ記事は、視点をそこにずらす役割を果たしているのではないでしょうか。
今回のデータが厚労省発表のものではなく、読売独自の調査にもとづくものであればこそ、その意図はより明確ではないか。
「今後、生活保護の申請増に比例して、不正受給も増えるのではないか」と自治体の担当者は語らせるあたり、いわば確信犯ともいえ、メディアがノイズの役割を果たす典型のようなものといえるでしょう。