失業率は、高い労組組織率ほど高くなる?!


五十嵐仁氏の著作についての池田信夫大先生の書評をめぐって、波風が立っている。
池田氏のものしたものが果たして書評とよべるのか疑問だが、知人の紙屋研究所がすでにこれに的確な批判を加えている。
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/roudousaikisei.html

当の五十嵐氏が、池田氏の一文に反論しないはずはもちろんなく、徹底した反批判が準備(*1)され、ほぼ池田氏の逃げ道はなくなったように思える。この内在的な批判にどう答えるのか待たれるところだが、応答はないようだ。

池田氏は、五十嵐氏が語っているように、およそアカデミックな立場にある人物だとは思えないような文章を書き連ねている。常習者だ。だいいち、「読んではいけないもの」というカテゴリーすら設けているのだから。けしかけている。
たとえば、ある人をとらえて、「中学生なみの知能」というあたり。これ自体、おかしいではないか。教授たる人物が中学生を「本気」で相手にし扱わねばならないというところが。通常、ほっとくだろうに。

しかし、一方で、たびたび罵詈雑言を並べ立てるご本人の池田信夫大先生が、ではいったい学者としてどれほどの評価をえているのだろう。
氏の著作リストをみても、彼の毒気のある口調とは結びつかない程度のささやかな業績ではないのか。

さて、氏には、こんな具合の言説がある。

「労働者保護」が強く労働組合の組織率の高い国(あるいは州)ほど失業率が高いのは、経済学で確立した定型的事実だ。厚労省の進めている「労働再規制」が、彼らの主観的な温情主義とは逆に、失業という格差を拡大することは確実である。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/5da8be5a2b3647d19defe7fc01fe8e7c


労組の組織率は18%にすぎないので、春闘でベアをやったところで、もともと恵まれているノンワーキング・リッチがさらにリッチになって、格差が広がるだけだ。サマーズも指摘するように、組織労働者を過剰保護すると非正規労働者にしわ寄せされ、自然失業率は上がる。そもそも業界全体で横並びの賃上げをする春闘という賃金カルテルが、まだ残っているのが異常なのだ。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/153f6e42c9974b9fecb8587809017d50

たしかに西欧諸国の失業率は日本よりはるかに高い。とはいえ、日本には統計上、諸外国に比較すると低く表されるのだが。
たとえばフランス。日本が4.1%(06年)にたいして8.8%。ドイツにいたっては9・8%だ。なるほど池田氏のいうとおりだ。
が、失業率と同時に貧困率も一方でみておかなくては事情は分からないだろう。少々旧いデータ(2000年相対的貧困率)だが、OECDによれば、日;13.6%、フランス;6.0%、ドイツ;8.0%という結果になっている。
日本と比較して貧困率が低い背景には、西欧諸国の生活保障があると推測される。
06年の一時期、高校生も巻き込んだ大規模な、若者雇用促進政策「初期雇用契約」(CPE)反対闘争が海を渡って伝えられたように、長い間、社会保障にかかわる高い企業負担が存在する。だから、結局、反対にあってCPEはつぶれたが、企業は抑制を図ろうとしたのだ。また、ドイツの失業手当は手厚い。
このような労働者の生活保障は、日本の失業給付とくらべるとはるかに充実していることが一因にもなっていると予測できる。

労働者が保護されると失業率が高いと書くとき、池田氏はその部分が一人歩きするのを期待しているだろう。氏が五十嵐氏にかみついたのは、まさに五十嵐氏が(企業にたいする)規制を求めようとしているからで、その規制に反対し、労働者保護に反対する池田氏とは正反対に位置するからである。

そのために、手段をえらばないのが氏である。ちょうど、自分とはちがう見解、学説を「読んではいけないもの」とくくったうえで、排除をけしかける。
この水準は、ブログの世界だ。悪罵、毀誉褒貶に満ちた。氏のようなウヨクでなくても、それは十分に浸透しているといっていい。

激しい言葉の羅列ほど、空虚なものはないのだが。

*1;拙著『労働再規制』に対する池田信夫氏の書評への反論(その1〜その5)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-20
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-21
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-22
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-23
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-24