自衛隊「歴史観講座」を見直すそうだが


田母神論文について、もはや田母神個人の問題ではなく、憲法を覆す教育をおこなう国家機関の存在を照らし出すところまで及んでいるとのべてきた(参照)。

昨日の朝日新聞「私の視点」欄で、林香里(東京大准教授)が田母神論文問題をとりあげている(写真)。
林は、政府側の対応とメディアの姿勢に疑問を呈している。

林によれば(気になるのは)、

田母神氏の歴史観そのものではない。挑戦状を突きつけられたともいえる政府側の対応と、それを監視する役割があるはずのメディアの姿勢だ。

田母神氏に「言論の自由」があるという論理を盾にして、いまだに政府としての歴史認識を語ることを避けている。
メディアの多くもこれに引きずられてしまい、文民統制任命責任などに重きを置いて報道してきた。
しかし、ことは思想や歴史観の問題だ。文民統制任命責任といった手続き論も重要だが、「それがすべて」と簡単に片づけるわけにはいかない。歴史認識は、特別な政治的アジェンダ(課題)として政府と国民が共有するべきだ。そのための努力を怠ってはならないという責任感が、政治家にもメディアにも欠落していないか。

肯んぜざるをえない。
同じように、ブログ言説のなかでは、田母神とそれを後援するアパ、そして政治家の関係性に熱心に言及するものもあるようだけれど、それだけにとどまっておいてはならない。

自衛隊は、統幕長が、共産党井上哲士参院議員が追及してきた自衛隊内の教育・講座の内容を見直すことを表明したそうである。

自衛隊:「歴史観講座」の内容見直しへ 統合幕僚長表明

自衛隊トップの斎藤隆統合幕僚長は20日の定例会見で、田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長統合幕僚学校長時代に新設した講座「歴史観・国家観」について見直すことを表明した。

講座では「現在の日本における歴史『認識』は、日本人のための歴史観ではない」とする教育が行われ、田母神氏の論文に近い内容が散見されるとして、野党側が問題視している。

斎藤氏は「全体のバランスからみてやや隔たりがあるという印象を受けるかもしれないが許容される範囲を逸脱したとはいい切れない」としつつ「今回の件をふまえ、よりバランスの取れた教育内容になるよう見直しを検討したい」と述べた。

侵略戦争を否定するという、憲法にてらして特殊な歴史観自衛隊に持ち込むシステムが問われているのだ。田母神氏は「歴史観・国家観」という課程を導入をはたらきかけた当事者だった。その後、「新しい歴史教科書をつくる会」の現副会長らが講義している。

つまり、あらためて田母神論文を当ブログがとりあげるのは、こうした課程や講義が、たとえば統幕学校という教育の場で過去の侵略戦争を美化したということにとどまらず、自衛隊そのものを侵略戦争美化に導くものだからだ。

林は、政府の明確な歴史観を問うている。賛成だ。
先の記事は、追及された結果と考えられるが、課程の見直しを統幕長が表明したという事実を伝えたものだ。しかし、林がいうように、挑戦状を突きつけられたのは政府であって、浜田防衛相が(特殊な歴史観の持ち込みを)「たいへい重大」とはのべたものの、いまだに政府としての歴史認識を明確には語ってはいない。
自衛隊が特殊な歴史観を教え込む実態にあることについて、明確な責任が存在する。土壌をつくってきた責任がある。
政府の歴史認識はどうか、あらためて明らかにすべきだ。
(「世相を拾う」08241)