国民をないがしろ− 「国会戦術」


解散の先送りが、流れてくるニュースからも感じられるようになってきました。内閣の支持率がいっこうに回復しないばかりか、停滞ないし低下を示す調査結果が目につきます。それだけでなく、首相があらためて米国への忠誠をのべています。麻生首相は、それが可能か否かは別にして、日本の存在を強調しようというつもりなのでしょうが。


「日本がリーダーシップ取る」麻生首相が米大統領と電話会談


私たちはこれらの断片的な情報から判断する術しかもちえていないわけで、その限りでいえば、11月末投票の総選挙という想定は遅れそうな気配を私も感じるのです。

そうなると、解散、選挙突入をこそ現局面での最大の政治目標としてきた民主党にとっては、青写真が狂ってしまうということになりかねません。むしろ、そうならないように国会の場面で、審議そっちのけで、自民党と法案を通過させる算段を練り上げてきたのではないでしょうか。わずか2日間の新テロ法延長法案の扱いに端的なように。

一連のこの経過は、少なくとも民主党の思惑からは相当に狂い始めているのは事実で、ここに至り、民主党は「国会戦術」の見直しを検討しているようです(参照)。つまり、解散先送りの態度に自公政権がでれば、「対決」姿勢を強めるとか。でも、これってさかさまのカンジがしませんか。そもそも政党は個別課題でとるべき態度ははっきりしているものでしょうが、その態度を「敵」の出方でころころと変える、こう宣言しているようなものです。これは戦術の問題だと開き直るのでしょうか。たとえば、新テロ法延長法案にいったい民主党は賛成なのでしょうか、反対なのでしょうか。あるいは後期高齢者医療制度に反対なのか、賛成なのか。
同党のいま考えているところから判断すると、反対でもなく、賛成でもない、時と場合によって態度は変わるといっているようなものです。政権をとろうというのなら、自民党とこうちがうということを、有権者に堂々と訴える、このことが民主党に最も求められているのではないでしょうか。

さて、首脳会議に積極姿勢をみせている麻生氏です。
そこで中心課題になる金融危機打開ですが、その金融危機が国内景気を揺さぶり、ついに政府は10月月例報告で、景気の基調が弱まっているとその判断を下方修正しました。2カ月ぶりだといわれています。いうまでもなく、金融危機は米国や欧州だけでなく世界全体の実体経済を冷え込ませ、日本がその例外のはずもありません。
日本はこれまで、国民生活をないがしろにし、国内需要は弱いまま外需に依存してきました。日経社説(10月22日付)の「悪条件の第一は頼みの綱である外需の鈍化だ」という表現に依存体質がはっきり出ています。

日本経済は、簡略化していえば、小泉「構造改革」路線で、大企業のもうけはどんどん増えたのに、国民の暮らしはいっこうによくならず、国民にとっては「回復感」のない景気拡大が続いてきたといえます。不安定雇用の拡大や社会保障の削減によって国民の暮らしはむしろ悪化し、貧困と格差の拡大が日本社会に亀裂をもたらしているのです。

アメリカの金融危機とそれにともなう実体経済の悪化は、それまでの原油や食料品の価格上昇と負担増もあいまって、二重、三重に国民の暮らしを直撃しています。だから、今の不況や円高の犠牲が国民にしわ寄せされるのを断ち切る対策をとらなければ、暮らしは破たんする、こう推測されるでしょう。

銀行の貸し渋り貸しはがしが心配されています。一方で、私たちは日本の大銀行がこんな環境にあることも知っておいてよいでしょう。1990年代の金融危機のあと、国民の税金から公的資金の投入を受け、税金もまけてもらいました。その結果、みずほ、三菱UFJ、三井住友の三大メガバンクだけでも年間3兆円もの大もうけをあげてきました。ところが金融危機がはじまるとこれらの大銀行は中小企業などへの貸し渋り貸しはがしを強めていて、それが資金繰りの悪化や経営破たんを招いています。貸し渋り貸しはがしを即刻やめさせることが日本社会にとっても緊急な課題です。

他方で、自動車や電機などの大企業が「構造改革」路線のもとで非正規など安上がりな雇用を増やし、輸出を拡大して大もうけを続けてきたことを私たちは知っています。これらの企業は、経済が悪化し始めると最初にやることが雇用を切り捨て、下請け企業にも単価の切り下げや発注削減を押し付けることです。大企業だけは生き残ろうという魂胆です。 すでにトヨタ自動車などで期間工の削減などが始まっています(参照)。雇用確保や下請け保護の社会的責任を果たさせられる政治が今、求められていると思います。

いま政府が検討しているのは、銀行への公的資金投入や大企業への設備投資減税、公共事業追加など、大企業向けの対策が中心です。そうではなく、いまもっとも急がれるのは不況や円高の犠牲が中小企業や国民にしわ寄せされるを阻止し、国民生活を守り、暮らしを立て直す抜本的対策をとることです。
応援すべきは大企業ではなく国民生活、これを基本にすえた政策を、どの党が主張し、実行に移すよう迫るのか、この点を今、しっかり見届けることが必要です。

国会の審議そっちのけで、「戦術」をちらつかせ、政局をもてあそぶことほど、それと対極に位置するものはないように私には思えます。
(「世相を拾う」08212)


同文を、花・髪切と思考の浮游空間にて公開しています。