二大政党政治推進論者の破綻


あえてここでは推進論者というが、山口二郎氏のことである。
氏が、自民、民主の二大政党政治を念頭において、この間、自説を展開してきたことはよく知られている。
以下の週刊誌の記事においても、氏自身の立場をつぎのように明らかにしている。

この十数年間、政権交代可能な政党システムを作ろうと主張してきた
解散総選挙で何を問うのか

と。また、その彼が、こう自らの心情を吐露している。素直にこの一文を読むかぎり、氏はもはや、二大政党推進のこれまでの立場にまったく自信喪失してしまったかのようにみえる。

最近の日本を見ていると、どの党が政権をとるかという問題よりも、そもそも日本で政党政治が意味あることをしているのかというより根本的な問題に我々は直面しているように思える。国会や選挙の場で自民党民主党が角を突き合わせているが、構造改革路線が自民党でも否定された今や、二大政党の政策的な対立は見えにくい。むしろ、二大政党の政策対立なるものが社会から浮き上がっている。(同上)

>つまり、話を急げば、氏のこの混迷は、あたかもこの二つの政党の間に「政策的対立」を見出そうとし、あるいは存在するものとして自説を説いてきたところに起因している。別の言葉でいえば、氏が「政策的な対立」のなさを嘆き、自信喪失に陥ってしまったこと自体が、二大政党を対立するものであるかのように描き、国民に説いてきた氏のはたんを表している。
いよいよ自民党政治がいきづまって、二つの政党の「交代」が実現の可能性をもつものとして我々の眼前に迫ってくれば、本来ありえない対立をあたかもあるかのように振る舞っているのだとすると、そうすることに無理がある。軋みが生じる。

その格好の証拠が、昨年の大連立騒動であった。
民主党という政党は、大連立の動きそのものを結局、小沢一郎すべてに責任をかぶせ小沢個別の問題として幕を引いてしまったが、民主党は元来、政権に近づけば近づくほど、党内の矛盾、あるいは有権者、支持者との矛盾がいっそう深まるものではなかったのか。参院選反自民の姿勢を宣伝したものの、その姿勢と民主党の政策との乖離の埋めように腐心した結果の大連立(構想)だったのだから。

それだけではない。
最近の民主党の姿勢をみるがいい。
大げさにいえば、すべての政策課題で態度表明をあいまいにするか、先送りする(参照)。その繰り返しのように思う。

ところで、左派、共産党はこの衆院選にあたって、政権の担い手の選択ではなく、政治の中身の変革を、というスローガンをかかげ、そこに今回選挙戦の焦点をあてている。
政党としては当たり前の主張だろう。なぜなら、民主党のいう政権交代を例にとると、同党の強調する政権交代というものが、党首がかわるという意味での自民党内の交代と異なるものならば、どのように政治をかえるのか、有権者に示すことくらいのことはたやすいだろう。むしろ、そうしてこそ、ちがいも、争点もみえてくるわけで、有権者にとっては選択しやすいし、政党にとっても選ばれる可能性もまた広がることになるはずである。
けれども、今もって、この問いに民主党は答えられないでいる。
それどころか、論戦にさえ持ち込むことができずに、補正予算案に賛成し、新テロ法延長法案の採決を容認してしまうありさまだ。

いいかえると、自民党政治のゆきづまりとは、民主党にとっても同じことだ。なぜなら、自民党政治の本質を大企業・財界優先の政治、米国追従の政治というところに置くかぎり、この点では民主党もかわらないからである。
それでは、山口氏は、これまでの自説の展開を反省し、自己批判するのだろうか。結論から先にいえば、この一文は、結果的に左からの、共産党からの批判に抗しきれず、以下に示す部分では、ほとんど無条件にその批判を受け入れたものともいえなくはない。

権力を獲得して、一体何をするのか、どのような社会を作るのか、理念が伝わってこなければ、政党政治は国民から見放される。

それでも、「財源にこだわって、政策論争が矮小なものになっても困る」というくだりに民主党への氏の未練が透けてみえる。
しかし、言葉を返すようで悪いが、氏の懸念は杞憂にすぎない。
先にのべたところから容易に察することができるように、自民と民主の間で政策論争など起こりえないのだから。
むしろ私が心配するのは、氏は簡単に混迷から抜け出せず、いっそうその深みにはまるという予測が的中することだ。

それは、たとえば、「権力を獲得して、一体何をするのか、どのような社会を作るのか」、それを明示しないでは見捨てられるといいながら、片方で、「政権交代は政策転換を実現する手段ではなく、それ自体目的である」とあくまで政権交代至上とばかり断言する論理的矛盾を放っておいてはばからない無神経さを感じるからである。
(「世相を拾う」08210)


花・髪切と思考の浮游空間に同文を公開しています。