大企業にモノがいえないなんて。


記事が紹介するように年収200万円に満たない人が1000万人を超えるという事象は、今日の日本社会の貧困の深刻さを端的に物語るものだろう。貧困がマスメディアで今ほどさまざまな切り口で語られる時代も、知るかぎり無かったように思う。

日頃、人権と向き合う弁護士たちが、貧困が雇用環境の破壊から生まれ出ていることを告発し、決議をあげた。


貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議

決議では、

ワーキングプア拡大の主たる要因は、構造改革政策の下で、労働分野の規制緩和が推進され、加えて元々脆弱な社会保障制度の下で社会保障費の抑制が進められたことにある

と、規制緩和社会保障切り捨てが貧困の要因であると明確に指摘した。
すなわち、こうした労働の規制緩和社会保障の切り捨てを求め主張してきたのは、ほかならぬ経団連など大企業・財界であった。

いまでも御手洗氏があからさまにのべているように、彼らの最大限の利潤追求という欲望が、労働者を人間としては扱わず、まるでモノとして扱うような労働環境を迫った。低賃金と長時間労働を蔓延させ、働く形態を正規から非正規、派遣労働に置き換えることによって、もうけ確保を図ってきたことになる。その際、彼らは、「国際的競争力」という言葉を駆使しながら。
その結果、決議の表現を借りれば、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、蓄え、家族、住まい、健康等を次々と喪失し、貧困が世代を超えて拡大再生産されるという「貧困の連鎖」の構造が作られてきたのだった。

したがって、われわれ誰もが生まれながらにして人権というものを享受しているという考えにたつのならば、即刻、この日本社会のゆがみはただされなければならない。
そのために、そのゆがみをつくり出した大もとにメスを入れ、少なくともゆがみが生まれ、一気に拡大に転じてきた出発点以前の状態に回復させることが焦眉の課題であることも一致できるだろう。
日弁連決議にみられる、具体的な提案6点はこの観点から支持できるものだ。

今日の貧困の要因は規制緩和社会保障切り捨てにあるといったが、そうであるならば、日本においての大企業・財界の責任は明確ではないか。
あわせて注意を喚起する必要があるのは、規制緩和社会保障切り捨てによって、彼ら大企業・財界の負担軽減と思いどおりになるしくみをつくったばかりか、税制面でも、彼らの負担軽減を強く彼らが求めてきたことであった。法人税減税と優遇税制に端的にみられるように。結果的に、そのことが意味するのは、彼のいいなりになった結果の減税分を庶民が負担し補うという構図の誕生である。

彼らの利益追求の欲望は、この日本の深刻な現状を前にしても消失はしないし、なおいっそうの国民負担増をつぎのような形で露骨に求めている。


税・財政・社会保障制度の一体改革に関する提言


いま、総選挙を前にして問われているのは、国民の生きていく上での不安を根本から取り除く転換を政治が図れるかどうか、ということではないか。「政権交代」のあるなしではない。
貧困、格差の広がりを正すという点でいえば、財界に応分の負担を強く求め、少なくとも規制緩和以前、派遣自由化以前に戻すことを実行に移さなければならない。
自民党にそれはできるものではもちろんなく、民主党でさえ、官僚機構の見直しや税金のムダ遣いはいえても、大企業・財界優遇を語れないことがあらためてはっきりした(小沢代表質問)。
ようは、自・民の両党は、政権の維持・交代を争うことはできても、根本的に貧困を絶とうとする政策をもちえていないということだ。
財界・大企業が総選挙を前にしたこの時期に、あえて国民負担を強調するのは、彼らのいいなり路線が両党によって担保されているからである。
(「世相を拾う」08195)