山口二郎氏へ。現在の税のあり方をみつめよ。


増税の口実に社会保障を支えるためにという言葉がもちいられている。それだけではなくて、福祉国家をめざすには消費税増税という選択肢以外にはないかのような言説がある。
かつて消費税を導入しようとする際、直間比率を為政者は語ったものだった。しかし、その直間比率も、消費税が導入されて以後は語ることはできなくなったのである。そこで、社会保障のために、あるいはそれを支えていくには増税しなかいという口実を採用してきた。増税の口実に社会保障を持ち出すのは今に限ったことではないが、いよいよ絞られたというわけだ。
その上で、山口二郎氏は、福祉国家というタームを持ち出し、分断を図ろうとしている(参照)。
つまり、自民党政権に違和感をもたない有権者の支持、少なくとも同意、暗黙の了解を得なければ、増税はやれない。むろん選挙を前にしてはもっと状況は厳しくなる。政権交代を御旗にして有権者の支持を取り付けてきた民主党だが、すでに同党「税調代表」の藤井裕久が消費税増税を打ち出した。少なくとも参院選民主党を勝たせたのは、有権者自民党政治にたいする反発以上のものではないと私は思っているのだが、そうであっても、この層が増税に反対しては増税はおこなえない。
山口氏の議論は、まずここに揺さぶりをかけたものだ。民主党にということではなく、民主党参院選で支持した有権者にむけたものである。あえて民主党にといわないのは、民主党は消費税増税派であって、その立場を明確にするか否かは状況によって決まる。それによって同党は決める。それだけのことだ。だから氏の言説は選挙のたびに自民、民主を行き来する有権者に向けられたものといってもよいだろう。
その上で、むろん山口氏は、民主党支持者のうちの旧社会党を支持してきた人たち、そして社民党支持者をも視野に入れている。共産党支持者もかな。福祉国家を持ち出すのはそのためだ。税金のつかいみちという点でいえば、氏の言葉を借りれば、左派は、無駄な公共事業をやめ、福祉や教育に使えという方向は、大なり小なり共有しうるからである。

しかし、税のあり方を考えることは社会のあり方を考えることであるという山口氏にしたがい、それでは現実をまず、ながめてみてはどうか。氏自身にも問いたいのだが、今の枠組みのなかで迫られている課題はごろごろしている。今国会の入口のところから焦点になっている道路特定財源問題。10年間で59兆円の「中期計画」を見直せないのか。暫定税率を廃止できないのか。これらの課題の解決の可能性は、将来にむかって福祉国家を国民が選択する可能性にくらべるとどちらが大きいか、自ずと明らかだろう。

どこから税をとるのかというのは、どこに税を配分するのかという問題とはもちろん異なる2つの問題だ。しかし、山口氏のいう税のあり方を考えることは社会のあり方を考えるという意味で、同じ問題でもある。
そして、氏の議論の最大の問題は、消費税増税のもとでの大企業・資産家優遇に眼をむけないところである。氏の立場が、「税を免れる」という権益にしがみつこうとする経団連などの支配層とまったく一致していることを確認せざるをえない。
将来の選択は現在の正確な認識を欠いてはありえない。