混合診療全面解禁見送りだが。条件づくりは終わっている。


政府の規制改革会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)は25日、第2次答申を決定し、求めていた焦点の混合診療の全面解禁を見送り、既存制度の拡充を求めるにとどまったそうである。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20071225dde001010002000c.html

しかし、すでにそのための条件づくりが以下のように終わっていることも頭においてよいと思う。
昨年10月1日より、健康保険法の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、それまでの特定療養費制度*1が廃止され、保険外併用療養費という制度に組み替えられた。これは、混合診療への地ならしといえる。

保険が利く医療と利かない医療を併用する仕組みである。考え方は、今後、医療内容は保険導入をするかどうか検討・評価をおこなうという「評価療養」と、保険導入を前提としないとされる「選定療養」に二分される。
その区分内容を列記すると、以下のようになる。


評価療養


  • 医療技術→先進医療(従来の高度先進医療をふくむ)
  • 医薬品・医療機器→治験、保険適用前の投与や使用等
選定療養

  • 快適性・利便性→特別の療養環境、予約診療、時間外診療
  • 医療機関の選択→200床以上病院の初診(未紹介患者)と再診
  • 医療行為の選択→制限回数を超える医療行為、180日を超える入院、前歯部の材料差額、金属床総義歯、小児う蝕後の継続管理


保険が利く医療と利かない医療を併用しないとまともな医療が受けられない状態を仮定しよう。すると、その費用を負担できない患者と負担できる患者は、医療(サービス)の内容に明らかに差ができる。支払い能力で格差が生じるわけだ。
そうなると、医療費抑制に汲々とする政府・厚労省の思惑とは無関係に、重症化の方向が予測されるわけで、医療費はむしろ増高するだろうし、疾病の社会的な拡大によって、不健康な社会に向かうことが予想される。疾病の世界的拡大することすら危惧される。

保険適用を拡大すると、制度がたちゆかなくなると私たちはつい考えがちだが、これまでを考えてみると、ときどきの医療水準からみた場合、必要な医療技術・サービスは基本的に保険適用され、安全性、効果などの点で確認されていないものが保険の利かないものと理解してよかった。現在、保険の利かない医療技術を保険に取り込んだからといって、そのことで制度が成り立たないということは考えにくい。現に、医療費の少なくない部分を占めるだろうと思われがちな高度先進医療は、医療費全体の0.01%にも満たないというデータすらある。むしろ安全性や有効性が確認されればすぐに保険収載することを認めることによって疾病の重症化や長期化を防止できるわけである。医療費の増加も防ぐことができる。

このたびの東京地裁への提訴のような意見、要は全額自己負担になるよりは一部でも保険適用されるほうがよいという意見はしばしば出されるものであろうが、この考え方は、いつまでも、どこまでも保険適用されない部分を認めることを前提にしている。だから、社会的費用負担を減らすという立場にたつとすれば、この立場ではなく、必要かつ有効で、安全性が認められれば迅速に保険適用せよという立場こそが妥当なものだと考える。有効性や安全性が確認されないかぎり、保険収載は認めないという考えを、逆に私たちはとるべきだと考えるわけだ。

私は、保険外併用療養費制度において、「選定療養」を増やしていくことは今後、混合診療に道を広げることにつながると考える。そして、保険収載がすすまない要因は、選定基準に安全性や有効性だけでなく、経済効率を求める姿勢が根本にあると思う。ましてや患者の好みや選択によって、保険収載の是非が図られてはならない。
すでに別のエントリーでふれたので、あえて繰り返さないが、混合診療にたいする規制緩和を求める立場は、以上にのべたように、必要な医療をだれもが受けることのできる体制をいかにつくっていくかとは、少なくともまったくちがう発想からできていると考えてよいと思う。


【関連エントリ】「花・髪切と思考の浮游空間」;混合診療解禁と松井道夫氏の言説。

*1:特定療養費は、混合診療や差額徴収を原則的に禁止したなかで、行政指導で認めてきたいわゆる差額ベッドなどを健康保険法で認め、1984年に導入された。「高度先進医療」と「選定療養」(患者が選択できる特別のサービス。差額ベッドなどがこれに入る)の2つをさす。中医協中央社会保険協議会)で決める。