どっちも博士なのだが。

出所が疑わしい「ニセ学位」をもとに04〜06年度に採用されたり昇進したりしていた教員が、全国の4大学に4人いたことが27日、文部科学省の初めての調査でわかった。同省は全大学・短大に厳正な対応を求める通知を送ったが、関係者は「判明したのは氷山の一角」として、追加調査の必要性を指摘している。
欧米や中国などには、ニセ学位を発行する「ディグリー・ミル」(学位工場)と呼ばれる組織がある。国内でも、インターネットなどで入手したニセ学位を示して大学の教員に採用されたり、教員採用後に経歴の箔(はく)付けで入手したりするケースも出ている。
http://www.asahi.com/national/update/1227/TKY200712270400.html?ref=goo

今年を表す漢字は「偽」。なので、このニュースは、まさに今年にふさわしいといえる。もっとも文科省がまさかそこを意識して公表したのではないだろうが。
こんな偽装博士が暴かれるのは当然だが、同時に考えたのは、オーバードクターといわれる社会問題。このオーバードクター問題は、つまるところ日本の学術体制に警告を発するもの。こういわれて久しいが、事態は深刻だ。

大学院で専門知識を身につけて博士課程を出た後、研究職につけずに行き場を失ったり、「ポスドク*1とよばれる短期契約の研究員を繰り返すなど、若手研究者の不安定雇用が深刻化している。この現状で優秀な研究者の育成が危ぶまれるという、日本の科学技術の将来が懸念される。
大学院博士課程を修了しても安定した研究職につくことができない若者の急増。「高学歴難民」「高学歴ワーキングプア」などともいわれている。根底に、政府の科学技術政策が生みだした矛盾である。けれど、若手研究者の今後は、日本の学術研究と社会の発展にかかわる大きな問題であるのはまちがいないだろう。就職難や劣悪な待遇の現状があらためられる必要があると思う。

仮にポスドクで就職しても、数年で異動するため短期の成果にとらわれてしまい、一貫した研究テーマを持ち続けるには困難がともなう。私の学生時代は産学協同などの言葉がはやったし、この言葉は実際いまも生きており、貫かれている。たとえば火山噴火、地球温暖化など、社会的には重要な課題を研究する研究者が学問の世界で重視され、はたして社会的にみて十分な待遇といえる環境にあるのか。この現状をあらためるには、短期雇用で目先の成果ばかり追う効率化優先の政策を転換しないと解決しない。

偽装博士のふるまいはこうした現状が一方であるだけになお指弾されなければならないという思いは拭えない。しかしニセ学位を見抜けないところに、一方で即効性や効率性に汲々とする日本の教育行政が横たわっている気がする。日本の教育にかける予算が著しく低く、例をあげると、大学の授業料は諸外国と比較し極端に高いことにもそれは反映している。オーバードクター問題では、大学や研究機関での教員・研究員の増員やポスドクの社会的地位向上、大学院教育の充実など、課題は山積している。
まさに税金のつかいみちの問題だ。同時に、膨大な経常利益をあげる大企業には、一定数の博士号所得者の採用を義務づけるくらいの就職支援を政府・文科省はやってもよい。
オーバードクター問題も、そして偽装博士にも、端的に日本の教育の貧困がそこに現われている。

*1:博士研究員。「ポスト・ドクトラル・フェロー」の略称。博士課程卒業後、大学や公的研究機関で、短期の任期つきで研究奨励金や給与などを受けて研究する人。ポスドクは支援形態によって、プロジェクト雇用型、大学や公的研究機関雇用型などがあり、給与や社会保険の条件はさまざま。このほか、そういう支援を受けられずに、研究以外の仕事で生活を支えながら研究を続ける「支援なしポスドク」も数多くいる。