中村哲「名誉ある孤立を」


ペシャワール会」会報(10月号)で、中村哲医師が現地のもようを簡潔に、それを知らない私たちにも状況が手にとるように分かる筆致で伝えている。国際貢献の名のもとに米軍の作戦に追随する動きを、民衆の半分が飢えている状態を放置して、「国際協調」も「対テロ戦争」も、うつろに響くとして厳しく批判している。氏の「『国際社会』からの名誉ある孤立を」という言葉は、いまの日本の国会内外の議論をおおもとから揺さぶるものではないか。
日本では、小沢騒動があったものの、この一連の動きのなかで、少なくともテロ特措法と給油活動再開に関しては、自民、民主の間では恒久法の制定という基本方向で一致しているようだ。アフガニスタンの状況をメディアが伝える機会はけっして多くはないし、現地からの中村医師のレポート(以下)は参考になる。

治安悪化へ対応
隣国パキスタンでは、内戦前夜を思わせる状態が続いています。行政の混乱だけでなく、既述のアフガン難民強制送還による影響もあり、ペシャワールでは暗殺、爆破事件が頻発するようになりました。8月下句、パキスタン.アフガニスタン両国の政情の緊迫化に伴い、わがPMS*1も「非常事態」と認識、以下の当面の方針が打ち出されました。
1.懸案のPMS病院基地病院は、ジャララバードに11月までに全面移転する。約10年間機能した基地病院は捨てがたいが、アフガン側で再興を図る。まずダラエヌール診療所を充実、ハンセン病等の診療設備を長期的視野で建設。
2.マルワリード用水路は、突貫工事態勢を敷く。2年分の予算を投じても、第2期7キロを来春にまで完成、数千町歩灌概を実現すべく全力を尽くす。パキスタンから強制帰還させられる難民の大半がニングラハル州にとどまり、州やカーブル政府にとっても大きな圧力になっている。その負担を軽減すれば、少なくとも同州北部の混乱を避けうる。
3.安全対策には万全を期すが、都市部は我々にとって危険になりつつある。日本政府の動き次第では、我々の安全に甚大な影響を及ぼす。欧米軍への協力姿勢が打ち出されれば、独自の現地情報と判断に基づき、日本人ワーカーを段階的にアフガニスタンから退去させる。危機管理の白衛対策をとる。
4.「海外からの安全情報」は、しばしば現実と異なるので軽挙妄動しない。指示があるまで粛々と任務を継続し、日本人ワーカーが退去しても基本的な事業に中断なきよう、作業工程、事業規模等を考慮する。地元農民や地元医師の手でも続けられる態勢をとる。一朝事あれば、思い切った方策をとる。


「国際社会」からの名誉ある孤立を
政情と「国際世論」を見る限り、「むなしい」の一語です。もう放っておいて欲しい、そう思います。6年前の「アフガン報復爆撃」と「アフガン復興ブーム」のとき、誰が現在の状態を予想したでしょうか。欧米諸国の車事介入、「対テロ戦争」の結末は既に結論が出たと言えるでしょう。武力介入は、良き何物も、もたらしませんでした。アフガン民衆の現状を抜きに進む先進諸国の論議に、忍耐も限界に近づきつつあります。
よく「日木だけが何もしないで良いのか。国際的な孤児になる」ということを耳にします。だが、今熟考すべきは、「先ず、何をしたらいけないか」です。
「徳は孤ならず、必ず隣あり」と言います。目先の利を離れ、和を唱えて孤立するなら、それは「各音ある孤立」であり、世界の人々の良心に力強く訴え、真に国民を守る力、平和への国際貢献となるでありましょう。その時、私たちはアジア民衆の友であり、平和日本の国民であることに、胸を張ることができるでしよう。
民衆の半分が飢えている状態を放置して、「国際協調」も「対テロ戦争」も、うつろに響きます。よく語られる「国際社会」には、少なくともアフガン民衆が含まれていないことを知りました。しかし、このような中でこそ、私たちは最後の一瞬まで事業完遂を目指し、平和が戦争に勝る力であることを実証したいと思います。皆様のご理解とご協力を切にお願い申し上げます。
<「診療の拠点をアフガニスタンに」から一部抜粋(「ペシャワール会報」no.93、2007年10月3日)>

*1:ペシャワール会医療サービス。1998年、難民救援団体としてパキスタン政府に登録され、当時無視されていたハンセン病患者の診療から出発、その後、アフガニスタン山村部の無医地区診療モデルをつくることをめざして活動。