税制のゆくえ=メディアは消費税増税をけしかける

税収不足必至がいわれるなかで、ではどのような税制を準備していくのか、それが鳩山政権には問われています。
民主党政権は、国民向けの施策を次々に打ち出してきました。その一つが子ども手当の創設でしょう。
たしかに子ども手当創設は、その点だけを切り取って考えると、その恩恵をうける世帯以外では、増税を心配しないといけない制度設計になっています。手当を支給されない家庭では、増税の痛みだけが押し付けられる。その上、住民税の扶養控除まで廃止されれば、国民健康保険料や医療費窓口負担などの引き上げに波及するのですから、手当をつくることには反対とならざるをえませんね。ここが、醜悪でもあります。国民のなかに分断をもちこむという、陰険極まりないと私は思わざるをえないのです。峰崎直樹財務副大臣は、再三、子ども手当導入と同時に所得税の扶養控除を廃止するという発言を繰り返しているのですね。この解きほぐしがたい発案そのものを見直し、子ども手当創設のための財源は、ほかに財源確保の手立てを追求してほしいと率直に願うのです。

ところが、民主党政権の考えていることは、私の考える方向とはどうも異なるよう。国家財政の一大事なのだから、歳入をどう確保し、増やするのか、そして歳出をどう減らし、頭を痛めるところでしょう。
まず事業仕分けという民主党政権がとった手法は、歳出をどう減らすのか、それを有権者にも見える形で整えたという意味で、従来の自民党政治とは一線を画したといえるのかもしれません。けれど、その削減の視点そのものは、少しもこれまでの自民党政治の枠組みを乗り越えたとは私は考えません。結局、一つ一つ有権者にとって削減か、そうでないのか確かめなくてはなりませんが、その線引きの基準はは少しも明確ではない。

一方の、歳入にかかわって、民主党政権がどのように考えているのか。この記事にあるように、メディアはすでに消費税増税の論陣を張っている。
ならば政権はどうするのか。周知のように、4年間は消費税増税を封印すると断言したのですね。では税源をどこに求めるのか、これが興味あるところ。
先の峰崎氏はこの点にかかわって、つぎのようにのべています。

所得税法人税、そこに大胆に税率を上げるとか手をつけない限り、財源は出てこない

と。
増税するとすれば仰るとおりとのべざるをえません。けれど、ほんとに法人税増税が議題になるのかといえばそうではありません。所得税累進課税税率アップも話題にならないのが実情のようです。だとすると、同氏が考えているのは、選択肢はほかになく消費税増税ということにほかならないのでは。
すでに、マスメディアは、それをけし掛けています。

消費税上げ「容認」が61%…読売世論調査

しかし、過去にさかのぼってみて考えると、福祉国家の経験をへず日本は企業社会ともいわれる、労働者を労働組合を企業が抱え込むことによって支配していく構造をつくり出してきました。年功序列賃金と終身雇用、それに退職金をふくめて老後を企業が支えているかのようなシステムがつくられてきました。その中で、労働者はわが身を削るがごとく目いっぱい働くことが位置づけられてきた。けれど、この支配構造が日本企業のそれまでの競争力の源でしたが、90年代の国際的な競争の中で見直さざるをえなくなったわけですね。競争に負けないためのステップを踏み出すことになる。その結果、賃金の抑制、企業負担の軽減、そして規制緩和という3つの手法でもって構造的な改革をおこない、競争力を維持し、利益をあげようと企業はしたのです。この点については、別の機会に詳しくふれようと思います。この(日本)企業の競争力強化のための3つの方策のうち2番目が注目を要します。

企業の負担を軽減するというのは、一つは税金です。上記にのべたように、かつての法人税率が見事に引き下げられているように、企業の税という直接的負担は見事に軽くなっています。民主党は、つまりこれに手をつけようとしない、手をつけようにもつけられないのです。モノがいえないのです。それだけでなく、法人税を安くあげるためには、国家財政の規模そのものを小さくする、これに代わるものはありません。法人税を安くあげるためには財政を小さくすればいい。財政が大きくなると、法人税をやすくするためには、企業からみて余分の社会保障に手を「つけ、縮減するのが手っ取り早いのです。高齢者のための医療と福祉は、格好のターゲットになってきたのです。

賃金抑制も、思うように企業は実施できなかったのですが、99年の労働者派遣の原則自由化、2003年の製造業への派遣解禁で、一気に先に進んだ。99年以降、正規社員は500万人が減り、非正規が500万人増えたというのですから、置き換えに成功したのですね。こうした経過と、派遣切りの事実、キヤノントヨタがまっさきに製造業の派遣切りに乗り出したことを重ねてみる必要があると思います。
こんな経過をたどって、国民・有権者構造改革路線にたいする反発が爆発したのが、07年参院選であって、その延長の今年の衆院選でしょう。
本来なら、さかのぼってみれば、民主党政権のとるべき方向は明確であるといわざるをえません。少なくとも、民主党自身の政策への共鳴というよりも、自民党のとってきた政策にたいする反発の結果の民主党選択だったのですから。
ところが、民主党の出自は否定できない。自民党と交代可能な政党として誕生したというそれ。それを破り捨て、脱皮しようなどという考えは、残念ながら民主党にはないように思えます。
子ども手当という国民の一部に手当てをする格好でいて、所得税の不要控除を廃止しようという設計は、その限界を物語っています。法人税を以前と同水準に戻し(以前以上に引き上げよといっているのではありません)、大企業から税金をとるなど毛頭、考えていないようですから、もう完全に「自民党と交代可能な」域に留まろうとしているということでしょう。