新政権への、先行き不安を解消してくれという発信
自民党政権時代がよいと考える人なら別だけれど、民主党に投票した多くの人はこれまでの自民党政権に大なり小なり愛想をつかしたということでしょう。だとするなら、新政権は、これらの人の期待に応えることを第一に考えないといけないでしょう。あえていえば、これは、民主党の掲げてきたマニフェストを全面実践するということと同じではもちろんありません。期待した人びとの個別の(政策的)期待の総和がマニフェストの全項目を網羅するということをあらかじめ意味することではないし、ある人はある項目については賛成するが、他の人の賛成するほかの項目に反対することだってあるからです。
ですから、政権を担う民主党が考えなければならないのは、マニフェストにかかげた項目のうち、国民・有権者の多くが期待している政策項目を優先的にとりあげ、実行に移すロードマップを確定することではないでしょうか。現状は、それがはっきりせず、期待をかけた人びとをその限りで裏切っているともいえるでしょう。
たしかに、長い間の自民党政権を引き継いだわけですから、旧弊・悪弊が山ほどあるのかもしれませんし、そう簡単ではないだろうことも推測されるわけです。が、たとえば野党時代の共同提案したはずの後期高齢者医療制度の廃止も現時点ではその目処がたったとはいえない状況です。世間では、これを担当する長妻氏の野党時代の咆哮が、政権についたとたんに消沈し、なかには氏自身の身を懸念する意見も散見されるような状況です。ミスター検討中という彼にたいする揶揄は、政権のいわば逡巡を象徴する代名詞と理解してもよいほどです。
NHKが連夜、放映しているNスペ「永田町・権力の興亡」。昨日、視てみました。国会議員、というよりも世間一般でいう大物たちのインタビューと映像による前段の構成に新味を感じることはできませんでした。面白かったのはむしろ、後半に配置された、高村薫と山口二郎*1、御厨貴という二人の政治学者の小対談。
高村が、冒頭にあげた国民・有権者のおそらく今現在の思いを代弁して的確な意見をのべていました。彼女の発言の要旨は、新政権は何をやろうとするのか、なぜそれをやるのか、やるとどうなるのか、きちんと国民に説明してほしいと、おおむねこんなものではなかったでしょうか。そして彼女は、それがなければ、新しい政権ができたメリットがないと言い切りました。まったくそのとおりでしょう。
新しい政権ができたことをそのこととして国民が受け止めるのは、それ以前の政府とやり方がかわったり、めざす方向が異なっていたり、実行に移された結果においてでしょうから。それが今は、はっきりと国民が感じ取れるものになっていないところに問題がある。
さらに将来図を描いてほしいと新政権に彼女は求めました。
この高村の発言の向こうで、たとえば鳩山首相の、(普天間基地移転問題での)「いつまでに結論を出せると申し上げる段階にない。米大統領が来るまでに決めなければならないとは思っていない」という答弁に、国民が不安を抱く発言の典型を私はみるのです。
つまり、高村は、将来がみえない不安を国民・有権者の声を代弁して語っている。
先行き不安の解消こそ、政権交代に多くの国民が賭けたものだといえるのでしょうから、民主党にとっても焦眉の課題のはずです。