財界との関係を清算できるのだろうか。。

選択がもたらすもの:/8 詩人・作家、辻井喬氏

今度の選挙の結果、時代が変わった、50年以上続いた自民の時代が終わったという認識だ。

この堤さんの言葉は今回結果の一面を衝いていると思います。けれども、さんざん当ブログでのべてきたように、自民党の長い政権維持がいったんは終わったという事実は、自民党政治が終わったことを同時に意味するものではないと思うのです。国民はともかく自民党の政権にストップをかけた。この事実は大きく、そして日本政治の歴史のなかで画期となるのかもしれません。
国民は、自らの投票によって、一つの仕事を成し遂げた。自民党にさよならをいうという仕事を。国民にさよならをいわれてしまった自民党という現実をもっとも深刻に受け止めているのは、堤さんが指摘するとおり、財界なのでしょう。
しかし、私は、この財界のもくろみが完全に断たれたとは思ってはいません。この辺りが堤さんの主張と異なるように思えます。つまり、民主党の政権が今後、どのような経過をたどるのか、未知数です。ようするに、民主党が財界とどんな関係をもつのか、不明な部分なのですから。自民党と財界との関係とはまったくちがった関係がはじまる可能性がないわけではもちろんありませんが、しかし、その可能性に望みをかけ、かわると判断するにはまだ早い、率直にそう思うわけです。
堤さんは以下にのべるような見方をしているのかどうか、文面からはもちろん分かりません。むしろ財界人でもあるわけですから、同じ階層のなかから財界を客観的にながめてできたのが堤さんのこの毎日新聞の言葉でしょう。

少しふりかえると、財界は日本に二大政党制をひこうとして、民主党を結成させた。財界の要求に軸足を置いた政治を継続できるという根本の目的のために。
たとえば、最近の経済財政諮問会議設置をはじめ、企業献金のあっせんの際に経団連の要求にどれだけ応じたかを判断に基準にするなどの経過は、財界・大企業が政治を支配しようとしてきたという事実を証明するのに十分すぎるでしょう。ですから、自民党はひたすら財界におもねり、優遇をつづけ、その結果、日本社会にとりかえしのつかないほどの亀裂を生じせしめたわけです。小泉のかけ声はそれをいっそう加速したのではないでしょうか。
そうした財界「主導」、財界の思惑に応えようとすればするほど、国民の願いとはかけ離れていくわけで、自民党はこうした局面、局面で、かつての高度成長期に利益誘導と利益擁護という表裏の関係をもとに階層ごと支配のしかけをつくり、自民党支持を維持してきましたが、そうした支持層を自ら掘り崩す結果になったのではないでしょうか。まさに、堤さんが「新たな思想、政策を持たないまま、権力だけを維持しようとした。弱体化がはっきりしてくると、公明党の力を借りて取り繕ってきたが、今回はいよいよ駄目になってしまった」とのべるように。

繰り返すと、この財界のもくろみが完全に断たれたとは思ってはいません。その意味では、「4年前の小泉旋風の逆が起きたわけではない」という堤さんの言葉は一面をたしかにいいあてているとは考えるのですが、別のエントリー(参照)で言及したように、自民党に入れずに民主党に入れるという行動自体は、あのときの小泉に入れる、つまり自民党に投票するという意識と峻別できるかといえば、そうも思えません。

民主党の政策には期待しないが、とにかく自民党ではない民主党に、こう有権者の流れができてしまった。そして、選挙後は、民主党政権に期待したいという意見も少なくはない以上、自民党さようならというのがともかく国民がおこなった選択第一段階ということになるのでしょうか。
それから先は、国民・有権者は決めていない。世論調査で、自民党にも立ち直ってほしいという意見も少なくないようですし、これからの先をみすえかねている状況のように私には思えてなりません。

中島岳志氏(参照)は、こうした状況をふまえ、民主党のお手並み拝見を提案しているのですが、その過程の中で、国民がつぎの第二段階の全体像をとらえるか否か、その点で率直にいえば、期待と疑念が私の中では同居している。自民党政治からの決別を民主党が果たすということは、自民党がとってきた、財界とのこれまでの関係を清算するということを意味します。
結局、堤氏の提言するグローバルな視点をもつということは、おそらくこれまでの自民党政治、つまり財界・大企業の権益を日本政治のなかで優先させるような立場をあらためる以外にはないと私は思うのですが、自民党もともかく、民主党もまた、その立場が問われている。決別を仮に民主党が選択した際に、国民・有権者の意識がまた一歩先に動くだろうと推測するのです。
そうしてはじめて、4年前の小泉旋風の逆が起きたわけではないと、あらためて今回の総選挙の結果、先にのべた選択第一段階をふりかえることが可能になるのではないでしょうか。