社会保障をダシに消費税を語るということ。


日本はヨーロッパ諸国にくらべると消費税は安いと思っている人は多いようだ。寄せられたコメントのなかにもそんな意見があった。
日本はまだまだ安いということと、消費税は社会保障のために上げざるをえないと、この2つのことを周りからよってたかっていわれると、少々上げてもやむなし、と考えたくなるのが、日本人なのかもしれない。あるいは、それに無関心を装うのもまた日本人か。
政府税調も、自民税調も、さらには民主党税調・藤井裕久も消費税増税を打ち出した。しかも「社会保障を目的に」と冠をつけて。加えて熱心なのは、経団連である。「今後のわが国税制のあり方と平成20年度税制改正に関する提言」をすでに公表している。昨年9月のことである。

消費税の利点を踏まえれば、わが国産業の国際競争力を維持しつつ、年1兆円のペースで増大する社会保障費用や息の長い少子化対策のための財源を安定的に賄い、かつ、債務残高のGDP比を着実に減少させていくためには、国・地方を通じた徹底した歳出削減を前提として、消費税率を引き上げ、今後のわが国における基幹的税目として役割を拡大していく必要がある。

89年に税率3%で導入された消費税は、途中で地方消費税が創設され、消費税税率4%とあわせて5%*1となった。07年度予算ベースではこうなる。消費税4%で税収10兆6000億円。地方消費税1%をふくめると13兆2500億円である。つまり1%で国民一人が2万円を負担する勘定になる。
こんな一網打尽に国民に負担させる消費税に、なぜ財界は血道をあげるのか。

こんなからくりがある。
消費税が、[課税売上−課税仕入]×5%で計算される。ところが、世界をまたにかける輸出産業は法外な利益をもたらす。
それは、輸出売上には消費税を課さないという租税特別措置、つまり優遇税制が存在していることによる。不当な利益確保といえる。たとえば、トヨタ自動車上表のようになる。約2900億円の還付を受けているのである(上図をクリックすると拡大します)。
消費税をあげればあげるほど、輸出産業は不当な利益を得る。一方で、低所得者の税負担割合は高くなってしまう。税率が上がれば上がるほど低所得者の税負担割合が高くなり、輸出産業の不当な利益確保を許してしまうという結果になる。
だから、皮肉なことに、巨大な産業を優遇する一方で、所得を再分配し、社会的な格差を縮めていこうとする憲法の意思を税制面で否定してしまうのである。憲法25条・国民の生存権はないがしろにされる結果になる。
憲法が規定するのは、応能負担原則だ。つまり、税負担は能力に応じて支払うという考えだ。同時に、国民は「平和に生存する権利を有する」し、社会保障は国の義務として位置づけられている。だから、税金は国民の生存権を保障するために使われなければならない。

話を元にもどすと、財界や大企業の消費税増税の主張には、不当な利益を得るという側面とともに、大企業への減税の必要性を求める意思がこめられている。実際に、法人税率は順次引き下げられ30%にまで下がっている。所得税でも税率区分が縮小されてきた。歳入減がしばしばいわれる。しかし、その主な要因は、この間の税制改正によって憲法で定める応能負担原則を無視した税率の引下げだともいえる。
その上に、消費税引き上げが主張されるとき、再三、日本の消費税は低いといわれる。しかし、実際には世界でも最高水準にあるといえる。たしかに日本の税率は今、他国にくらべて低いかもしれないが、税収比率でみるとまったく遜色ない(下図)。


   日本 イギリス イタリア アメリ
消費税率  5.0% 17.5% 20.0%  0.0%
国税収入比率 24.60% 23.70% 27.50%  0.0%

経団連が多額の政治献金を支払う際に政党の「通信簿」をつけることはよく知られている。その際、政党を評価する基準に「消費税の引上げを含む抜本的改革をする」という優先事項が盛られている。経団連から献金をもらおうとすれば、消費税引き上げに賛成しなければならないのである。先にあげた政党の消費税増税への合唱ともいうべき事態は、その忠実な実践にほかならない。
憲法がいう応能負担の原則にたち、生存権の保障とは何か、あらためてとらえ返すことが必要ではないか。財界・大企業が自らの権益確保を前提に、政党を支配する事態にいたっている今、それが、なおいっそう重要である。 

*1:地方税である地方消費税は、以下のように定められている。消費税4%×(100分の25)=1%。両方の税をあわせて税率は5%となる。