消費税増税−社会保障目的という方便


社会保障を支えるための財源は消費税以外にはないのか。これが大きな論点になってきた。
政府は消費税増税が既定の路線であるかのようにいうし、自民税調、政府税調も同様で、まるで選択肢は他にないといわんばかりの合唱を繰り返している。そこに、民主党が加わった。
同党は消費税増税を公約にかかげることを決めたそうである。
同党の「08年度税制改革大綱」では、消費税を社会保障目的税にすることを前提に、「(将来的に)引き上げ幅や使途を明らかにして国民の審判を受け、具体化する」と明記している。
<民主税制大綱>消費税上げの検討を示唆 道路財源は一般化

筋道がはっきりしている。すでに11月、自民党民主党が消費税増税で気脈を通じていることにふれた(参照)けれど、それがあらためて公にされたということである。こと消費税にかぎっていえば、「連立」はすでにできあがっている。しかも、民主党もまた社会保障目的税だという。
したがって、つぎに、社会保障目的税とはいったい何かということも重要な第二の論点にしなければならない。

消費税増税は避けられないのか

社会保障を支える財源をどう確保するのかは解決しなければならない重要な問題である。社会保障関連費は一般会計の4分の1を占める。この間の構造改革がすすむなかで、政府は自然増分の抑制までうちだし、これが今日もつづいている。こんな背景があるし、舛添厚労相社会保障費の抑制は限界にきていると繰り返しいうのは、「改革」という名で抑制をつづけてきた担当省の率直な思いといえるのかもしれない。社会保障制度の見直しによる歳出削減は現実的には相当の困難がともなうというわけである。別の言葉でいうのなら、「改革』路線は矛盾に直面しているといえる。最近の生活保護見直しの撤回、後期高齢者医療制度の見直しを思い起こせばよい。参院選後の状況がそれらを加速している。

だから、重要なのは、社会保障の財源を何によって、つまりどんな税金で支えるのかという話になる。政府は、真意なのかどうかは措くとして、それに消費税をあてようというわけだ。
歳入・歳出をすべて見直し、不要不急のものはないか、論議すればよいと思うのだが、政府は共産党などの野党が指摘するように、手をつけない「聖域」をつくってきた。当ブログでは、たとえばそれは歳出での軍事費、思いやり予算、歳入では企業減税、大資産家への優遇税制などを指している。どこに手をつけるか、国民が選択すべきときを迎えている。

つぎの点からも検討が必要だ。
社会保障を支えるには消費税の税率をあげるしかないと政府は考えているようだが、日本より社会保障という点で先行するヨーロッパが消費税を社会保障目的税として位置づけているかといえばそうではない。ヨーロッパでは、社会保障給付が伸びたときも、社会保険料(の引き上げ)で対応している。社会保険料こそ、その使途を社会保障に限るわけだから、社会保障目的のれっきとした財源である。消費税を増やして対応したのではない。いうまでもなく事業主の負担割合は日本より高い。

社会保障目的といって国民を欺く

第二の重要な論点は、消費税を社会保障目的税にするとはいったい何かということである。
野口悠紀雄氏が自らのホームページで、すでに社会保障目的税化について厳しい批判をくわえている(消費税の増税目的税化は欺瞞)。氏の立場から、簡潔な説明で論点が整理されている。
氏の結論は「社会保障目的税化」とは、消費税増税を行ないやすくするための方便というものだが、これ以上の説明は要しない。氏の言葉を借りて、あえて付け加えれば、「消費税を社会保障費にあてる」と観念することの実質的な意味は、消費税の増税(の一部)を社会保障費増以外に用いるのを見えにくくすることなのである。

このように、政府の考えていることは、社会保障をやり玉にあげながら、実はそれ以外の歳出に結果的にふりむけることにある。
たとえば、これまで消費税の導入・増税によって公的負担の面で最大の恩恵を受けたのは財界だと結論づけることができる。1989年に導入された消費税の税収は累計で175兆円。この年以降、法人税率は42%から30%まで12%も引き下げられた。06年度までの法人課税の減収は合計で160兆円というのだから、消費税収の大部分が法人課税の減収に吸い込まれた形になっている。結局は、増税のゆくえとはこんなものである。
政府は国民を欺くことをやめよ。