介護から人材が逃げる。


ワーキングプアといわれる層は特別の環境におかれている人だけをさしているのではない。人間を労働の対象とする介護職の現状も深刻であり、またワーキングプア層を生みかねない構造になっている。

介護施設職員の年間平均収入は305万円程度。低い賃金と厳しい労働条件に4人に1人が1年で辞めていきます。景気が上向いてきたことで他の職種に転換していく人が多いのです。また、若い人たち介護福祉士の資格を取っても介護の仕事に就こうとはしません。もっと楽で高い賃金を得られる仕事があるからです。スーパーのパートのレジ係の時給でも1000円です。NHKでは介護施設で働き始めた一人の若者を5年間追ってきましたが、その彼もここにきて辞めることになりました。介護の仕事に適性を感じ、やりがいもあったのですが、この仕事では生活が成り立たず結婚もできないので決断したのです(3月11日放映分から)

これは少し古いが、メール配信の「医療タイムス―週刊医療界レポート」の記事から引用したものだ。そのタイトルは、「介護施設の人材が逃げていきます NHKスペシャル 介護問題取材班」。この番組を視損ねたが、指摘されているケースは決して特殊なものではないように思える。

たとえば、財団法人介護労働安定センターがおこなった平成16年度「事業所における介護労働実態調査結果」 によって介護分野の賃金をみると、番組で紹介された低賃金構造があることがうかがえる。平均20万3600円。06年賃金構造基本調査によれば、正社員の平均賃金が31万8800円なので、明らかな差異がある。ただし、この調査では平均年齢が41.0歳。一方の介護職は、平均年齢は示されていないが、男女比が男性が15.6%、女性が81.6%。男性で40歳未満が66.8%を占めるものの、女性は40歳以上が58%を占めている。だから、概算すると、むしろ介護職の年齢がやや高い。
この賃金構造は、上記に示したように「この仕事では生活が成り立たず結婚もできないので決断」しかねないものだ。

この構造に表される介護労働にたいする社会的評価は、一つは介護報酬に反映されるだろう。端的に介護労働者の受け取る賃金の低さに象徴される評価の低さはそもそもの介護保険制度、支援費制度などのしくみ、報酬設定に問題があると予測がつく。介護労働の一つひとつが報酬として評価されているか、その評価が適正なものか、という視点でとらえかえし、制度的見直しは緊急を要するといってよい。一方で、この分野は、歴史が比較的浅い上に、たとえば福祉労働と同じように「利潤をうむ」ことにたいする一種の抑制が働いていることも否めない。それは結果的にそこで働く者の自己犠牲によっているともいえる。
現状での介護・福祉職の質にばらつきがあることを指摘する声もあるようだが、本来、人間を対象とする医療や福祉、介護などの労働の評価が果たしてこれでよいのか疑問に思う。質のばらつきは専門性と無関係ではもちろんないが、働く環境を最終的に決めるのは国民だという立場にたてば、国民、利用者がまた質を決めているといえる。

過酷な労働環境を前に医師の「立ち去り」が指摘されているけれど、同様に、介護から人材が逃げていかないようにするためには、利用者・家族だけでなく、国民のかかわり、関心を高めることが最低の条件だ。