「悲劇の定義」の主人公


11万を超える人が集う集会は予想をはるかに超えるものではあったが、偶然の産物でも何物でもなかった。すでにことし6月末には、沖縄の全議会が「集団自決」をめぐる教科書検定意見撤回を求める意見書を可決したという事実がある。県議会および41市町村議会が可決、すべての自治体が意見書を採択したことは、「集団自決」に軍の強制・関与があったことが真実として動かしがたいもの、という沖縄県民の意思を明確に示したものだといえる。
琉球新報(6・28)は「集団自決」検定意見 全議会が撤回要求と題した記事でこうのべていた。

来年度から使用される高校歴史教科書から沖縄戦の「集団自決」への日本軍の強制に関する表記が文部科学省教科書検定で修正・削除された問題で、検定意見の撤回を求める意見書が28日までに県内全議会で可決された。同日午前には嘉手納町議会(伊礼政吉議長)と国頭村議会(仲井間宗明議長)が意見書案を全会一致で可決。県議会を含め、41市町村の意見書が出そろい、検定意見撤回を求める統一した県民世論が示された。各種団体も検定意見撤回を求めており、軍強制の記述復活は県全体を挙げた要求になっている 。

そのとき自民党・安倍政権は沖縄全県民をすでに敵に回してしまっていた。
くしくも当時、米下院外交委員会が、「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式謝罪を求める決議案を賛成39、反対2の圧倒的多数で可決した。

日本政府は、歴代の首相が「謝罪」しているといって採決回避を米議会に働きかけてきたのだが、にもかかわらず米議会が謝罪要求決議を可決したのは、安倍晋三首相をはじめ過去の侵略戦争を肯定する潮流、「靖国」派議連−自民党議員だけでなく、民主党議員も−が「強制はなかった」と戦争責任を否定していることへの反発の強さを示していた。
安倍政権と日本政府の対応は、今回のアメリカ議会だけでなく、ブッシュ政権からも反発をうけ、文字どおり国際社会から総反発をうけていたともいえる。

そのブッシュ大統領はこんなジョーク「悲劇の定義」の主人公でもあった(早坂隆・世界反米ジョーク集 (中公新書ラクレ) )。

ブッシュ大統領が地方の小学校を訪れていた。教壇に立ったブッシュは生徒を前にこんな質問をした。

―この世界は多くの悲劇で溢れている。誰か「悲劇」の例を挙げることができるかな?

すると一人の男の子が手を挙げて答えた。

―僕の大切な友達がクルマに櫟かれて死んじゃったら、それが「悲劇」だと思います

それを聞いたブッシュはこう言った。

―それは「悲劇」と言うよりも「不幸な事故」だろうね

今度は女の子が手を挙げて答えた。

―私のクラスの先生が急病で亡くなったら、それが「悲劇」だと思います

それを聞いたブッシュはこう言った。

―それは「悲劇」と言うよりも「大きな損失」だろうね

子どもたちはみんな黙ってしまった。ブッシュが言う。

―どうした? 誰も「悲劇」の例を挙げられないのかな?

すると教室の後ろの方に座っていた男の子が、自信なさそうに手を挙げて言った。

―大統領の乗った飛行機がテロに遭ったら、それが「悲劇」だと思います

―すばらしい答えだ! その通り!

ブッシュは満足そうにそう叫んだ。ブッシュはその男の子に近付いて頭を撫でながら聞いた。

―すごいな君は。たいしたものだ。どうやってそんなに立派な答えを思いついたんだい?

男の子は言った。

―だってこれなら「不幸な事故」でもないし「大きな損失」でもないと思って

悲劇なのは、こう揶揄されるジョージ・W・ブッシュだが、これをそのまま安倍晋三に置き換えることも可能なことだ。おそらく安倍首相はブッシュによってその後、オーストラリアの会談で引導をわたされたのだろうが、このとき、すでに安倍首相は「悲劇の定義」を迫る存在だったということではないか。