[社会]731部隊;なぜ医学犯罪が起きたのか(2)


日本医学会総会でのシンポジウム「戦争と医の倫理」の第二報。シンポジストの一人、ダニエル・ウィクラー氏(ハーバード大学公衆衛生学部教授)の報告概要である。
氏は、金の取引でアメリカが731部隊員を免責したことについてふれ、その倫理観を批判している。

アメリカは戦後、731部隊をどう扱うかという点について検討しています。
「たしかに政府は、後になってひどく厄介なことになるかもしれない。しかしここから得られる情報、とりわけ細菌戦の人体に対する影響に関して日本人から最終的に得られるであろう情報は、後の厄介ごとというリスクを負うだけの重要性を持つ、とわれわれは強く信じる」(チェザルディン大佐・国務陸軍海軍三省調整委員会、1947)という記録がある。


この「厄介ごとというリスク」という考えには戦略的な配慮しかなく、道徳的な配慮はありません。さらにアメリカは取引の理由について「アメリカには高い倫理観があるから、自分で人体実験なんてできないからだ」と述べていますが、高い倫理観があるなら、なぜ取引自体をおかしいと思わなかったのでしょうか。


合衆国細菌戦調査団は1945年の終戦後すぐ日本を訪れ、元731部隊の幹部たちと面会しました。彼らは口外しない条件で、東京裁判では訴えられませんでした。データはアメリカに渡り、合衆国の機密資金から元731部隊の科学者に報酬も払われました。
アメリカはナチスを裁いたニュルンベルク裁判で、ナチスの科学者たちを死刑にしました。しかしこのときも処罰せずにアメリカに貢献させた例があります。
NASA(アメリカ航空宇宙局)の月面着陸に貢献した科学者は元ナチスで、後に「宇宙科学の父」と呼ばれました。


国家安全保障のための研究は、通常秘密裏におこなわれます。情報がもれるのを防ぐことは正当です。しかし秘密裏におこなわれるために、一般の人々が研究を批判的に検討する機会が失われ、研究者は自らのおこないを正当化する必要もなくなり、不正な医学実験がおこなわれる危険性があります。
731部隊のような過去の悪行は、次の世代の重荷になると私は考えます。データ入手のために取引がされたことで、私たちアメリカ人も重荷を背負うことになった。そして積極的に隠したことで、最初に取引したときよりも多くの重荷を背負うことになったのです。