『シッコ(Sicko)』はどう観られているか

シッコ」が上映されている。
朝日新聞(8・26)が特集を組み、6人の識者がこの映画を評している。
ほとんどの評者が将来の日本をそこにみているが、私の感想に比較的近いのは森達也南木佳士。とくに医師でもある南木は、「シッコ」を日本に投影し、その接続点がどこにあるのかを的確に指摘する。

利潤のみ追求の末路明示


信州の山奥に住む年金暮らしの独居老人の胸部X線写真に悪性腫瘍を疑う影が見つかった。田舎医者は国立がんセンターへの紹介状を書いた。
老人は一人で上京し、最先端の手術を受け、無事に信州に戻って長く生きた。
わたしは国民皆保険制度を維持するこの国の底力を見せつけられた。
そんな日本が、金さえ出せば保険外の診療も受けられる混合診療などの制度を導入しつつある。その手本とする米国の医療制度の矛盾に満ちた現在をリアルに描き出すムーアの新作は、利潤のみを追求する医療システムの末路を明らかにしてくれる。
ただ、人の生老病死を扱う医療とは、もとより業の深い仕事だから、理想の裏には必ず闇が潜む。ムーアが羨む英国の国民保健サービスも外国人医師の手に負うところが多く、各国の医療を担う人々の実生活の過酷さに迫る詰めは甘い。
それでも、あえて悪人を仕立てあげず、自分の生まれ育った米国の医療を少しでも良くしたいと願うムーアの真摯な姿勢には強く共感する。
国民健康保険料の未納者が年々増えている日本にとって、不気味な未来を鮮明に見せつけてくれるとても怖い作品だ。

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