八ツ場ダム建設で減電補償金が東電に入る

件の八ツ場ダム。政権の存在意義そのものが四方八方から問われている問題だといえるだろう。野田は苦渋の決断(参照)というのだけれど、はたしてそうなのだろうか。行きつ戻りつしたこの間の経過には、何かしらそれなりの背景があると考えざるをえない。一方でその事業費については、すでに過剰な見積額だと指摘があるのは周知のことだろう。
ということで、いくらか過去にさかのぼってみた。その中に首をかしざるをえないものがやはりあった。
八ツ場ダムの事業費については前述したように過剰だという指摘があった。しかし、注目しないといけないのは、東京電力への配慮が見積もりの前提としてあるということ。つまり、事業費のなかに減電補償(1;)という名で東京電力への多額な補償金があらかじめ見込まれているという事実がある。
このことに関連してアーサー・ビナードが語っている(参照、文中の吉田は吉田照美)。

アーサー;(笑)。あのね、八ッ場ダムを作ると僕らの税金が、あの、東京電力に入る仕組みになってるんですよ。
吉田  ;ふざけてるねえ
アーサー;これあの、見事ですよ
吉田  ;これそうなの
アーサー;うん。八ッ場ダムの上流には東電が水力発電を行ってる関が、あの、3箇所あるんです
吉田  ;はいはい
アーサー;その水を発電に使うんです。
吉田  ;ああ
アーサー;発電につかうと、その、送水管に入れるわけ。
吉田  ;ああー
アーサー;川から引いて。そうするとその水は送水管を通って、八ッ場ダムの建設予定地よりも下流で、その吾妻川に戻るようになるんですよね。ごめん吾妻川。そう吾妻川にもどるようにもう作られてもう作られて、もうとっくに昔にそうなってるわけ
吉田  ;へえー、へえー
アーサー;だから治水を、これ使えばできるじゃんっていう話ももちろん、あの、できるんだけど。それはおいておいて。ようするにあの、水を発電に使うと八ッ場ダムには水がたまらないんです
吉田  ;はあ
アーサー;だから何が治水だよ。もう、貯まらないダムなんです。
吉田  ;ひどい
アーサー;でも、無理してでっちあげて作っておいて、それで、作ったら今度水を貯めなきゃ体裁が……
吉田  ;わるいやね
アーサー;ね。体裁悪よね
吉田  ;ダムじゃないもんね。
アーサー;ただのコンクリートの壁になるから。で、水を貯めるためには、今度その、水を、あの、水力発電に使わないでためなくちゃいけないんです
吉田  ;はあーーーー。変な話だねこれーーー
アーサー;首都圏の水が余ってるのに水力発電は減らして、それで水を貯めるわけ
吉田  ;はぁーーひどい。イカサマの権化だねえ
アーサー;ねえ。そうするとこれがうまいんですよ。このやり方うまいですよ。あの、八ッ場ダムが完成すると、東電から利水、利水権を買って、僕らの税金で買って。それで発電をおさえてもらって、それでダムに水を流すようにするしかないんです。そのために……
吉田  ;なめきってるねこれ……
アーサー;(笑)そのためにね、費用として、まあ50%の取水制限を行った場合、まあそういう事になるだろうって
吉田  ;はああああああ
アーサー;言われてんだけど。そうすると毎年17億円の税金が東電に支払われる
吉田  ;ふざけるな東京電力
アーサー;で、東電は別の方法で発電すれば充分間に合うから、東電の儲けは減らないんです。でも、あの、17億円は棚ぼて(※棚ぼた)で入るんです。
吉田;はあーー
アーサー;だから税金、棚ぼた、総括原価方式が、またここで利益を産み出して、で、自然エネルギーを増やそうっていってるくせして、八ッ場ダム自然エネルギーを減らすんですよ
吉田  ;ああースゴイ話だ
アーサー;それが通ろうとしてるわけです。

しかし、実はすでにこの減電補償について「赤旗」がふれていた。減電補償金額が1年間で17億円にのぼることが明らかにされている(参照)。

国土交通省群馬県に計画する八ツ場(やんば)ダムの総事業費が同省が予定する予算4600億円を超過する公算が大きいことがわかりました。これは、ダム周辺に水力発電所を持つ東京電力への補償金に数百億円が見込まれるため。建設の継続はより多くの事業費負担を生み、国民の批判を受けるのは必至です。
同ダム予定地を流れる吾妻川の水系は水力発電の一大産地。東京電力水力発電所が14あります。
現在、同ダム予定地上流の三つの堰(せき)で取水した毎秒30トンの水は、発電のため川を通らずに送水管を通ります。大量の水がダム予定地をう回する格好です。
この状態では、仮に八ツ場ダムが完成しても水が貯まらないダムになってしまいます。そのため国交省は東電から水利権を譲り受ける必要があります。
そこで発生するのが、発電量が減ることへの補償金(減電補償)です。東電への減電補償がいくらになるのか、国交省は「個別企業の経営上の問題にかかわる」として明らかにしていません。
日本共産党の伊藤祐司前群馬県議は、近隣の県営発電所の買電価格などを参考に試算。2004年10月の県議会で取り上げました。50%の取水制限を行った場合、直接関係する五つの発電所の影響額は、1年分だけで17億円、30年分で510億円と見積もりました。
ところがダム事業費4600億円のうち減電補償などに充てる「特殊補償」枠の予算は217億円にすぎません。しかも、これは導水管の移設工事費なども含んだ金額。予算不足は明らかです。
「八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会」の嶋津暉之さんは「減電補償はダム完成直前に支払うものなので、それまで伏せておくことができる。それをよいことに国交省は東電と交渉中だとか、4600億円に織り込みずみなどと言ってごまかしているが、数百億円の規模になって事業費再増額の一要因になることは確実だ」といいます。
八ツ場ダムの工事費をめぐっては、減電補償の他にも、地すべり対策工事費や関連工事の進捗率が低いことから、さらなる増額の恐れが指摘されています。

記事は、2009年9月のものだが、そこで1年分だけで17億円の減電補償金について指摘していて、アーサー・ビナードの発言とそれは一致している。民主党政権がなぜ右にゆれ左にゆれと思わせながらも、つまるところ建設継続に踏み切ったのか。その理由を、福島原発事故と重ねてわせてこの八ツ場建設をとらえ、基幹産業たるエネルギー産業である東電への政府の手厚い配慮にあると考えたところでまったくおかしくはない。いかなる形をとろうと政権・政党への肩入れである献金・寄付金がこんな形で大企業に還元されるということになる。


1; 八ツ場(やんば)あしたの会では、「八ッ場ダム計画の問題点」で東電への補償について以下のように記されている。

国と県は、八ッ場ダムはCOm2削減にも貢献するとPRしている。だが吾妻川流域にはすでに東京電力(株)の多数の発電所があり、晴天時には流量の約8割が発電用水として取水されている。八ッ場ダムの貯水量を確保するためにはこの発電用水を大幅に削減することが必要で、その結果、新たな発電所の生み出す発電量より遥かに多くの発電量が八ッ場ダムによって失われ、その減電に対して巨額の補償が必要となる。(三度目の基本計画変更、2008年11月)