わが身を切れという主張の危うさまたは定数削減

不退転の決意という言葉で消費税増税を打ち上げた野田だが、反発は大きかった。まずわが身を切れという、増税を提起される側からみるとしごく当然とも思える反論が返ってきた。しかし、この主張をそのまま無条件に受け取るわけにはいかない。わが身を切れという主張は、定数削減や議員宿舎の削減がお決まりになっている。メディアもそこに着目し、有権者に向けて煽るというしくみが定着してしまった。こうした有権者の反発の大きさも手伝い、あるいはそれに乗っかって、いや逆手にとって今回の野田の発言(下記)があると考えてもおかしくはない。
定数削減についてエントリでこうのべた。

考えなければならないと思うのは、議員定数問題は選挙制度と切り離して考えにくいし、現に小選挙区制とセットにしようというものだからだ。有権者の政党支持の動向を反映するには比例代表制がもっともよいと思う。選挙区の当選者数を小さくすればするほど、有権者の政党支持の状況とは異なる選挙結果が出るしくみになる。仮に1人を選ぶ小選挙区で5つの政党が候補者を立て、票が分散し5人にほとんど票差がないとすれば、21%という得票率でも当選できる。だからこの場合、残りの約80%は死票になってしまう。ここまで極端なケースでなくても、当選できなかった4人の候補者の得票はすべて生かされないのだから、小選挙区は民意を反映しない制度だと容易に理解できる。そうなると自分の票は生かしたいというインセンティブが働き、より当選しそうな政党/候補者に票が集まる投票行動が想定できるだろう。議員定数問題が小選挙区制度の拡大と対で提起されるということは、結局、二大政党制をすすめ、少数政党を排除する手段にするものだと受け止められてもしかたない。

民主主義を尊重しようとする立場であれば、いかなる少数の意見も排除してはならない。定数削減が小選挙区制度を前提に組み立てられているとすれば、それに反対せざるをえない。なぜなら、小選挙区制度では少数政党を支持する有権者の票が制度的に排除されてしまい、いわゆる民意とはかけ離れた議席配置が結果としてもたらされるから。こう考えると、あえていえばわが身を切れという主張はあらかじめ危うさを孕んでいるといえるし、それが定数削減を指すのであれば反対せざるをえない。

有権者から政治がはるかかなたに遠ざかり、閉塞感を誰もが抱かざるをえないという今日の不幸は、政治を有権者の側にひきつけるためのしかけを求めているのかもしれない。それに応えるとすれば、その際、いかにして有権者との接点をつくるかという視点が必要ではないかと思う。しかし現実は接点をつくる方向ではなく、逆にしだいに有権者との隔たりを生み出すしくみが採用されているのではと疑わせる。それだから、議員との遠い関係が議員は要らないという論理を導くことにもなる。

今の日本の政治は、政党助成金を受け取らないという姿勢を貫いている共産党を除き、助成金に多かれ少なかれ依存している。換言すると、助成金で賄える政治という思考に政党が陥る可能性が少なくないと思える。だから、このしくみのあり方自体が政党と有権者の距離を広げる方向に力を働かせているようにみえて仕方がない。そうした政治と各政党のあり方を問うてこそ今日の閉塞感を打開する方途が浮かび上がるように思う。助成金を受け取って当たり前だという認識があると、政党とは国民の税金の一定のパイを互いに分け合う、せいぜいその程度の差異にすぎないと考えても不思議ではないような気がする。受け取る側もそんな気分にならないという保証は少しもない。その上、選挙制度上、小選挙区と結びついてしまえば、有権者の支持のいかんにかかわらず、しだいにより大きな政党に税金が還流されていくというフローは民主主義とは相容れない。
こんな現状にあるのだから各政党はむろん、メディアも決して政党助成金の廃止など口にはしない。が、助成金廃止は、政治と有権者との隔たりをなくす上で必須で有効ではないのか。そのほうが少なくとも現状よりはるかに日本の民主主義をしなやかにするように思う。だから、わが身を切れという話を持ち出すのであれば、政党助成金を俎上にのせなくては点睛を欠くと指摘されてもしかたがない。
税のとり方については言葉の上の話ではなく聖域なしで検討してほしい。これまでの政権は話の前提で自らに不都合なものは排除して、「聖域なき」などと語っていた。政党助成金を横に措き最初から検討の対象とはしないという態度は即刻あらためたらどうか。野田の今回の発言には、したがって強く反対する。

議員定数削減、通常国会で決着…首相が明言
野田首相は21日午後、国会内で開かれた民主党両院議員懇談会であいさつし、「議員定数の削減は来年の通常国会の早い段階で決着をつけたい」と述べ、通常国会で消費税率引き上げの関連法案を成立させる前に、国会議員の定数削減を実現させる意向を示した。