政権の憂鬱


伝えられてくるのは、政権の弱点ばかり。右往左往、見解不統一、不規則発言などなど。限りがありません。おそらく、これからもこの事態は続くような気がします。首相の指導力というものが仮にあるとすれば、これもある程度は防ぎえたのかもしれません。しかし、こうした政権の頼りなさは、何も個々の人物の技量だけによるものではないでしょう。業を煮やした小沢が、政権に要望をつきつける姿にいたって、いよいよこの民主党と同政権の力量自体が大方みえてきたように思えます。
あれほど、自慢げに小沢が語った政策の内閣一元化はもはや、小沢のこの行動でもって自ら打ち消したのです。うそでしたというようなもの。主客転倒がさまざま語られています。その政権の頼りなさは、一連の動向によって実感されます。まずは、長妻厚労相

子ども手当「所得制限なしで」 厚労相ら強調
長妻昭厚生労働相は19日のTBS番組で、政府内で子ども手当の支給に年収2000万円の所得制限を設ける案が浮上していることに「子どもに所得はない。そういう意味では所得制限なしで措置したい」と述べ、所得制限の導入に反対する考えを改めて強調した。出演者からの電話に答えた。
厳しい財政状況を理由に所得制限の導入を容認する構えをみせていた福島瑞穂少子化担当相は同番組で、年収2000万円の所得制限案について「2000万円では該当者は少ない。それならすべての子どもに(支給すべきだ)」と語った。

大臣の発言とはとても私には思えません。子どもに一般に所得がないのは誰しも分かっていることです。所得が無いから子ども手当てを出すと民主党は公約してきたのでしょうか。 お小遣いを分け与えるわけではないでしょうし。そもそもこの手当は、現行の児童手当廃止、所得税の扶養控除廃止による増税を前提としています。子育て世帯にとっては、子ども手当が支給される代わりに現行の児童手当が廃止され、所得税増税されることになります。つまり、子ども手当がもらえるとはいえ、増税と給付減の影響で、月額2万6000円が宣伝されていますが、実際の効果はも大幅に現象する。さらに住民税の増税も考えているのですから、まさに羊頭狗肉というものではないでしょうか。社会保障というものを、所得の再分配という機能から考えるのならば、この手当に限れば、民主党政権のとる方向は否定されなければならないと思うのです。
来年に先送りされた普天間基地移設問題。この大臣の心の奥底には、日米軍事同盟至上主義というものが潜んでいるようです。

「海兵隊は日本に必要」 外相、グアム移転に否定的考え
岡田克也外相は18日の記者会見で、米海兵隊普天間飛行場沖縄県宜野湾市)移設問題に関連し、「海兵隊は日本にとって必要な存在。海兵隊の抑止力に期待するなら、日本の外に出てくれということは、あまり通用しない」と語り、米領グアムなど国外への完全撤退を求めることに否定的な考えを示した。
現行の日米合意では、普天間飛行場の移設に伴い、沖縄の負担軽減策として海兵隊8千人(定員1万8千人)がグアムに移転する計画だが、社民党などはこれに加え、普天間の機能そのものをグアムに移すべきだと求めている。
岡田氏は「機動的で様々な能力を持った海兵隊は紛争の発生自身を抑止することになるし、その機動力が日本の安全にとって有用であるという場面は当然考えられる」と語った。

ところで、岡田外相はすでに自ら主張してきた嘉手納統合案を引っ込めたわけですから、氏の言葉によれば、この政権の選択肢は日米両国合意か、国内移転に限られてきそう。思い切って合意を破棄し、米軍基地は本国に返すなどという、潔い判断は望めそうにありません。代替案はそもそも、今現在、米軍基地が存在することによって周辺地域住民と自治体にもたらされる問題をたらい回しに等しい。平行移動するにすぎないものです。岡田外相の発言は、日米合意を落としどころに見立てた発言だといえるでしょう。先送りにつぐ、先送り。これもまた、民主党といえば先送り、先送りといえば民主党という具合に、同党の同党たるところでしょう。

最初の子ども手当も、つぎの岡田外相の発言も、民主党の根本的な政治姿勢にかかわっています。その点はぶれないのです。一見、子ども手当は、広く国民の可処分所得を増加させるようにみえ、その分、消費に回るのではと期待される向きもなきにしもありません。また、手当を期待して民主党に投票された方もおられるのでしょう・が、冒頭でふれたような、このしくみ自体が増税と抱き合わせになっている点に着目するば、多くの世帯の可処分所得を高め、国内消費が増向する可能性は少ないとみてよいでしょう。これは、「ムダ排除」だけに財源を求めて、それを言い続けてきた民主党の財源論のもろさを示しています。いまや財界向けの法人税減税の見直し、米軍への思いやり予算に本格的に切り込まなければならないはずなのに。いわくつきの事業仕分けをみてごらんなさい。結局、思いやり予算に手をつけられなかったではありませんか。

そして、第二の米軍基地問題は、まさに米国と日本の関係を今後、どのようなものにするのか、民主党政権の姿勢が象徴的に表現されています。沖縄県民の意思、世論と米国の圧力をてんびんにかけようとすることそのものの評価が必要です。人権が、他人から奪われない、少数者であっても守られるべき憲法上の権利だと理解すると、それと米国の権益を同じモノサシで(民主党は)みているということになります。これは、根底に米国との関係を最優先にする思想と結びついている。その見方そのものをあらためない限り、先送りにしたところで同じ事態の繰り返しになるでしょう。とどのつまり、合意、先にありきということで決着。こう推測してしまうのです。

この民主党の大本にある財界と米国にたいする「配慮」は自民党と交代したにもかかわらず、連続しているもの。小沢は、政権に民主党の要求をつきつけました。もっとスピーディにやれということでしょうか。国会改革も、政策一元化も、党と内閣の役割を明確に分けるといって、打ち上げたもののはず。ですが、そのことも放り投げ、より強権的な政治を加速させるために自ら乗り出した。
小沢が常々、参院選での絶対多数を口にするのも、強権的な政治体制づくりを視野に入れたものです。しかし同時に、強権的な姿勢が強調されればされるほど、国民・有権者の反発を買う、これも政権誕生後の出来事で明らかになってきました。だって、多数を引き連れた要望提出時、そして中国副主席の天皇会見問題をめぐる小沢の傲慢な態度と国民世論に、それは見事に表れているではありませんか。あるとすれば、そこに政権の憂鬱があるのかもしれません。