財源論− パイの配分から税率の変化まで


「花・髪切と思考の浮游空間」に以下の記事を公開しました。
税のとり方とパイの配分


一つのパイがあるとしましょう。
そのうちの5分の1は冷蔵庫にしまい、残り5分の4をどのように兄弟で分けるか。

総選挙の争点に、財源の問題がクローズアップされてきたようです。
冒頭のたとえは、自民党民主党に共通する構図です。

財源論− 聖域ありでは議論がゆがむ。。というエントリーでふれたように、税のつかいみちととり方をどのようにするのか、これを正面から問わなければならないのに、両党は、税のとり方にしても、つかいみちにしても、手をつけない部分があって、しかも、その手をつけない部分が共通している。

上記のたとえはパイのいわば配分の問題ですから、これを税のつかいみちにたとえてみましょう。
話し合いの最初から除外されている5分の1のパイは、米軍や財界などへの補助金がこれに含まれます。自民、民主はここに手を付けない。たとえ、朝日がもちあげたように「「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」とのべたとしても(参照)。

見直すというのなら、税の配分上もこのようにあらためますと謳ってしかるべき、そう皆さんは思われませんか。片方でマニフェストでかっこよく「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」などといいながら、米軍への思いやり予算をはじめ、肝心の税の配分を今後どうするのか、これに沈黙するのでは、国民の皆さんの不安がもちあがるのは当然だといえましょう。

即座にできないのであれば、段階的に解消しなすくらいのことは、本気で「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直」すという立場にたっているのなら、明記できるでしょうに。こんな態度こそ、国民の不安をあおる結果になっていると思います。

社会保障費をここ数年、自民党政府は自然増部分でさえも2200億円削ってきたわけで、批判が沸騰しついに1年は見直すと公言せざるをえなかったくらいですね。つまり、自民党政府というものは、社会保障費を目のかたきにしてきた。片方で、財界や米軍のためには、あらかじめパイを確保しながら。上のたとえでいえば残り5分の4のうち、できるだけ社会保障にはパイの分け前を少なくしようとしてきたのです。2009年度の一般歳出予算案(参照)では、社会保障費は全体の約48%を占めていますから、全体を5分の4のパイにたとえるなら、そのうちのほぼ半分の5分の2が社会保障費ということになります。

ムダをなくそうといっても、すぐに理解できるように、5分の4のなかでのことです。だから、冷蔵庫にしまわれた5分の1のパイの分け前にあずかる米軍と財界は、まさに涼しい顔をしていうrことができるというわけです。自民・民主のムダをなくすという議論の落とし穴は、最初から手をつけないところが前提に組み立てられているということです。ゆがむとはこういうことです。

同じように、税のとり方もまた、いびつにゆがめられてきました。
自民党が消費税増税を打ち出し、民主党は交代後の4年間はやらないという。
民主党のいう4年間を額面どおりにうけとって、では、税のとり方で聖域がないのか、手をつけない部分がないのかといえば、そうではない。
いくつかのブログで消費税増税反対のキャンペーンがはられ、そこでも指摘されているように、消費税導入後の消費税による税収は、同期間の法人税減税額を補って余りある。たとえば大企業は法人税は税率が下がりっぱなしです。ですから、法人税を下げる代償を、つまり税収不足分をどこが担うか、それが国民、消費者だったわけです。この間の消費税増税などによって消費税総額は、以下のような手厚い一部のための優遇政策を支えるために使われてきたといってよい。

法人税率の動向(基本税率%)

  • 1988年 42.0%
  • 1991年 37.5%
  • 1995年 37,5%
  • 1998年 34.5%
  • 1999年 30.0%
(旧大蔵省・財政金融統計月報より)


所得税率の推移
  数字は、最高税率 最低税率 段階の順。

  • 1986年  70% 10.5%、15
  • 1988年  60% 10.0%、12
  • 1989年  50% 10.0%、 5 
  • 1999年  37% 10.0%、 4 


2つの指標をあげました。どちらも右肩下がりになっているのがよく分かります。
法人税率は上の期間で42%から30%に、所得税最高税率は70%から37%に下がったというのです。最高税率の適用を受けるのは高額所得者。しかも所得税の税率段階が15段階から4段階に平準化されています。所得税という直接税自体がそもそも所得の再分配機能を持たせるために負担能力のある人から負担能力のない人を細かく段階を区切って税率を定めてきたのに、これをフラット化させるということは、税の累進性とはまったく逆の方向です。あらためて税率の構造でこそ応能負担の原則を貫くべきだと私は思います。
ですから、法人税を元に戻す、所得税最高税率を元に戻すことをふくめて、税をどこからとるのか、検討すべきだと思うのです。支払える能力のある人には応分を負担を求めるという立場をとる、こう私は考えます。

ムダづかいをなくす論がしばしば話題になります。そして、華々しい政策が打ち出されていますが、そうした際に、話題にしない部分、たとえていえば冷蔵庫にしまっておくパイを除いて議論しても、配分の仕方はまるっきり異なってくるということです。
(「世相を拾う」09165)