『理論劇画 マルクス資本論』− 現代の難問をマルクスはどう解く


もう二月ほど前になるでしょうか、紙屋さん*1がひょっこり私の勤務先に顔を出しました。どうしたのと尋ねると、彼もまちがいなく青年なのだけれど、なんでも青年を対象に話をするらしい。それで社会保障分野のある本がほしいということでした。医療分野の青年たちの学習会だから、切り口を彼らにあわせようとする紙屋さんらしい意図が読み取れました。
そんな出来事があった時期、彼は着々と出版の準備をしていたわけです。
その本は理論劇画 マルクス資本論。彼は、漫画評論を日ごろものし、『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』を著していますし、彼自身が自らマルキストを名乗っているわけで、この2人の彼がほどよく調和され『理論劇画 マルクス資本論』を世に問うたということになるでしょう。彼は、この本の構成・解説を担当しているのです。

世界的な金融危機といわれて久しいものです。経済指標は時を追って下方修正しないといけないほど影響が深く広く広がり、まるでボディーブローのように日本社会を襲っています。IMFなどは先進国の中で日本がもっとも深刻だと言い切っているほどです。もちろん日本だけでなく、たとえば米国では、一昔前には考えられないような巨大企業が経営破たんに陥り、つい最近はあのクライスラーも倒産する羽目に至りました。こうした状況に、現代の資本主義が実効ある対策をなかなか打ち出せずにいて、資本主義の危機が語られることも少なくありません。日本では、小林多喜二の『蟹工船』が広く読まれ、誰も想定しえなかったブームが訪れました。つまり若者まったく知らないはずの蟹工船の時代を、自らの置かれている環境に重ねて読んでいるわけでしょう。そして、資本主義がこれだけのほころびに直面しているからこそ、対極にあるマルクスの思想が注目を世界中で浴びている。

紙屋さんは、マルクス資本論で叙述した資本の行動を今日に移し変え、今日を理解する上でも資本論に親しんでもらおうと考えたにちがいありません。それでも、資本論は並大抵ではありません。挑戦することはできても、挫折を経験しないではいられないのかもしれません。挫折に至らなくても、挫折と深刻にとらえる前に、すでに投げ出すのが圧倒的なのかもしれません。
そこに、紙屋さんは今回、挑戦したともいえる。

彼の解説(の表題)を列記してみましょう。


  • 金融危機で一挙に200兆円もの損失が生まれた理由
  • 資本の目的はもうけにある。人びとのためではない
  • 資本家にもいい人がいるという議論があるけれど……
  • 日本の最低賃金を『資本論』で検証すると?
  • マルクスの時代にも請負・派遣業者はいたのか?
  • 日本の労働時間は『資本論』の世界そのままだ!
  • “大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”
  • 時代を超えてよみがえった資本家の悪知恵=派遣法
  • マルクスが予見していた正社員と派遣との分断策
  • 豊かさの一方の貧困 生産力を社会のために使えば解決

興味深いテーマだと感じられませんか。私たちの今いきている現代の直面している難問がここに設定されています。つまり、紙屋さんは、マルクスにかわって、現代の難問を『資本論』で読み解こうとしているのです。マルクスはいやだ、どうもという人も一度は読んでいただいて損はないと私は思います。

*1:紙屋高雪。漫画評論サイト「紙屋研究所」を主宰