失業が減った?


件の党首討論は今朝のテレビ「サンデーモーニング」でも酷評されていた。評価は大方そのあたりだろうと思うのだが、一部ブロガーの波長はそれとは異なるらしい。呆れてしまうくらいの内容でひいきを宣伝している。あれほどの低レベルの議論の勝ち負けなどほとんど意味もないのだが。党首討論という言葉が泣いている。
たとえば、ぼろ儲けしながら、大量の期間工派遣労働者の首を切る大企業を徹底して追及し、救済策を示すことに私ならむしろ価値を置く。

そこで雇用情勢だが、失業率が低下しているそうだ。
低下するとは、いったいどうしたことだろう。だいいち、米国に端を発した金融危機が日本の実体経済を確実に襲っている。その結果、派遣労働者にとって明日がどうなるのか、不安を抱え続ける毎日ではないか、そう予測させるに十分は、自動車メーカーの派遣切りが続いているからだ。
そう考えると、失業率は低下どころか、上がると考えるのが普通だろう。
しかし、つぶさにみると、記事の扱いがメディア各社でちがっている(注)。私がみたなかでは、以下の記事がもっとも丁寧だと思える。

10月完全失業率は3.7%に低下、非労働力人口増に注視


記事はこう記している。

総務省が28日発表した労働力調査によると、10月の完全失業率(季節調整値)は3.7%と9月(4.0%)から低下し、昨年7月(3.6%)以来の低水準となった。

 ロイターが民間調査機関に行った聞き取り調査での予測中央値は4.2%となっていたが、これを大きく下回った。 

 就業者数は前年比36万人減と9カ月連続で減少し、9月の29万人減から減少幅が拡大した。一方で、失業者数は前年比16万人減となり、9月の同2万人増から減少に転じた。減少するのは3月(13万人減)以来7カ月ぶり。

 職探しをあきらめた人口がカウントされる非労働力人口は、男女ともに増加した結果、前年比56万人増となり、9月の同36万人増から増加幅が拡大した。 

 総務省では、就業者の減少傾向に加え、就業者から完全失業者や非労働力人口にシフトする動きがみられることから、今後の雇用状況については「一層注意する必要がある」との認識を示した。

 特に、非労働力人口の増加は「過去の景気後退期にもみられている」とし、今後は就業者数、失業者数に加え、非労働力人口の動きも注視する必要がある、との見解を示した。

完全失業率が低下しているのは事実なのだが、それでは雇用された者が増えているのかといえば、そうではなく、失業率の低下が、非労働力人口に起因する可能性もある。それを同時に記事は伝えている。

記事は、9月、10月を比較して(数字はいずれも前年比)、
失業者数は、2万人→△16万人と減少
就業者数は、△29万人→△36万人と減少
労働力人口の増加幅が36万人→56万人と増加

という結果を伝えている。
つまり、10月を例にとると、就業者が36万人減っているのに、失業者は16万人しか減っていない。差し引き20万人がどこかに移動している。結果、就業していない者が就業者減36万人+失業者増16万人=52万人増となる一方、非労働力人口には職探しをあきらめた人もふくまれ、56万人増だから、差し引き20万人はほぼ非労働力人口に吸収されたとみてよいだろう。

もともと日本の失業者の定義は、つぎのように狭い。
完全失業者とは、(1)月末の一週間に一時間以上仕事をしていないこと、(2)その一週間に求職活動をしていること、(3)仕事があればすぐに就ける状態にあること―などの条件を満たす人を指している。また、自衛隊員も労働力にカウントしており、軍人を労働力に入れない米国とは異なる。
ようは、完全失業者の定義は厳しく、分母の労働力は広いわけだから、失業率は各国と比較しても、実態と比べても少なくでることが指摘されている。

記事に戻ると、いずれも官庁発表の数字だが、各社報道でこれほどのちがいがでるのは、今の局面での雇用問題、国民の暮らしへの関心のありようが異なっているということを端的に示している。

官庁の発表も失業率が減ったことに力点を置いたものだったと想像されるのだが、それにしても時事通信社などの記事(下記参照)には、国民にたいするまなざしを欠いたものといわざるをえない。その姿勢は、明確な違法をふくむ大企業の派遣切りにたしいても黙ってしまうメディアの態度と連続しているのだ。


注;引用した記事以外では以下。

10月の有効求人倍率0.80倍に低下 失業率改善も雇用情勢は悪化 (日経)
有効求人倍率、大幅低下0.80倍=4年5カ月ぶり低水準−10月 (時事通信社