江原啓之「ハッピー筋斗雲」事件は決着なのか。。

フジテレビ:江原さん出演番組で報告書公表
http://mainichi.jp/photo/news/20080403k0000m040187000c.html

フジテレビは2日、昨年7月に放送した「FNS27時間テレビ」の中でスピリチュアルカウンセラー(霊能師)の江原啓之ひろゆき)さんが一般女性の同意を得ずにカウンセリングしたことについて、報告書を同局のホームページで公表した。
番組のコーナー「ハッピー筋斗雲」では、江原さんが「女性の亡くなった父の声」とする言葉を基に女性を批判している。
この番組をめぐっては「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の放送倫理検証委員会が今年1月、「『おもしろさ』『わかりやすさ』をよりどころとし、出演者の生活への影響を考えていない」と批判する意見書*1をまとめている。

記事が伝えるのは、BPOの指摘にたいするフジテレビの事件報告と再発防止策の公表だ。
しかし、テレビ局側の報告書を読むかぎり、事件にたいする局の見解、つまり評価は明記されてはいない*2
http://wwwz.fujitv.co.jp/fujitv/news/report/index.html

当エントリーは、以下の記事にも目をとおして書いているのだが、記事が指摘するような「一番の問題点は非科学的、荒唐無稽(こうとうむけい)な霊視を番組の中核に置いたこと」という文言は報告書にはない。つまり、フジテレビは、いわゆるスピリチュアリズムを批判しているというわけではない。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20080403ddm041040109000c.html?fr=rk

事件にたいするフジテレビの態度表明らしいと思えるものは、以下の部分だろう。

今回の件は、本コーナーにご出演いただいた皆様は全く関知していない部分での、番組制作上、演出上の問題と認識しております。結果として、出演者の皆様、関係者の皆様に多大なご迷惑、ご心労をお掛けしてしまったことを改めてお詫び申し上げます。

ここでは、事件が演出上の責任と個別的に断定され、お詫びがのべられている。
それだけのことだが、その上で、具体的な再発防止策として、報告書によれば、フジテレビはつぎの対応をとるということらしい。

その結果、弊社編成制作局が発行する「番組制作ハンドブック」の中に新たな項目として付け加えることを決めました。

ここでいう「新たな項目」は、以下のとおりだ。

第1章 番組制作の姿勢
■ 演出・表現に関して注意するべきこと
1・一般人出演企画は出演者の人権に配慮し、慎重に進めていきましょう
一般人は所謂「芸能人」と異なり出演に際し特段の配慮が必要です。当人の人権を損なうような演出・表現を避けることは言うに及ばず、当人及び家族・親族・関係者にまで、心情に気を配った番組を仕上げていかねばなりません。十分な情報の裏づけを取った上で、きめ細かい同意作業を詰めていき、番組と出演者との信頼関係を築いていくことが必要です。

一般人にとってテレビに出演することは、我々が考えるより遥かに重い意味を持っていることを十分に自覚し、番組制作にあたっては、細心の注意を払うこと。
出演する一般人との間に心情のずれを生じ、過度の期待感を抱かせるような説明は避ける。
所謂「サプライズ」という演出手法を一般人に対して用いる際は、当人やその周辺を傷つけることがないよう、十分な裏づけを取る。
収録時、収録後、放送前など、さまざまな段階で当人や周辺の心情を配慮した、きめ細かい同意作業を重ねるように心がける。

演出上の問題と断じたわけだから、落ち着くのはこの程度のこんな対応策なのだろう。


番組の構成に踏み込んで考えると、江原啓之は、美輪明宏という異色のスターと加えてたとえばお笑いタレントが一緒に番組に登場する。
そこで、美輪とコンビを組むというしかけに意味がある。
番組で江原は、霊能師としてふるまうだけでなく、美輪と組むことで、江原の霊視に中核があるにもかかわず、番組をバラエティーショーという枠組みに収め、われわれをその宗教性をバラエティーという衣でつつんでしまう。あとでみるように自らタレントとしてもふるまうわけだ。
だから、この場合、美輪を欠いては宗教家の江原はありえず、タレントとしての江原もない。通常、宗教であるがゆえに、その言説のいちいちをとりあげて批判の対象とはしない。宗教という担保によって、科学的な妥当性を問うことをわれわれは通常しないのだ。
だから、番組に登場した江原をみるわれわれの眼は、宗教家としての彼を、まず批判の対象から除去してしまうだろう。その言説の妥当性をわれわれは問わないのだ。
その上に、美輪と組んだバラエティー番組という枠組みがあるので、むしろそうだからこそ、そのことでわれわれは安堵してしまう。宗教にたいする一種の引いてしまう、敬遠の姿勢はどこかにいってしまう。バリアが解ける。江原を宗教家とはみなさず単にタレントの宗教性、霊視として受容してしまう。
なので、江原のタレント性が美輪や他のタレントとの対話で演出、保存され、その宗教性と連続してしまう。こうしてメディアを介在して、宗教にたいする日本社会の寛容が形づくられるのではないか。

こんな文脈で、BPOの番組批判にてらして今回のフジテレビの対応をみてみると、無視できないずれを感じる。フジの報告書は、専門家の意見を列記している。けれど、フジテレビとしての見解はまったくみえない。

つまり、当該番組が、江原氏の霊視を中心に置く番組である以上、宗教家を登場させバラエティー番組として構成するということに無反省であっては、再発は防ぎ得ない。清水英夫*3が指摘するように、霊視者をメインにすえるなら、今後も同様の事件は起こりうると推測される。ようは、霊視能力のあるとされる者が、その能力を一般人に納得させるためには、事件と同様に超越的な断定に意味が付与されないといけない。それは一般人の了解の有無とはむろん無関係にである。
言い換えれば、むしろバラエティー番組という枠組みが一種の安心をおしだすという劇場、宗教性をはらむ江原が超然と登場する番組編成そのものを問わなければならなかった。演出以前の問題として。

*1:FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」に関する意見、http://www.bpo.gr.jp/kensyo/kettei/k002.pdf−引用者

*2:報告書を探すのは少々面倒。フジのメイン;http://www.fujitv.co.jp/index.html から入って、メニュー;こちらフジテレビを選択⇒画面中ほどの、ボタン;人権や青少年問題について、をクリック⇒画面末尾の「 BPOからの意見・問合せに対するフジテレビの回答・報告」をクリックしてようやくたどり着く。

*3:報告書には、外部専門家の一人としてコメントが記載されている。フジの顧問弁護士。