保険料滞納者の受診は抑制される。


滞納してしまうと、その代償として受診抑制を選択せざるをえないということか。

 国民健康保険料(税)を1年以上滞納し、保険証の代わりに資格証明書を交付された人が受診する頻度は、全国保険医団体連合会(保団連)の調査で、一般の人の2%未満と極めて低かった。
 資格証だと、自己負担分を除いた医療費を後で請求できるものの、窓口でいったん全額を支払わなければならないためとみられる。
 各都道府県の国保連合会を保団連が調査し、2006年度に受診した医療機関数と回数を100人当たりで点数化。回答のあった39道府県の単純平均で、一般の人は774.7ポイントだったのに対し、資格証を交付された人は15.0ポイントとなり、受診頻度は一般の1.9%だった。資格証交付者の受診頻度が最も少なかったのは山梨県で2.1ポイント、最も多かった青森県は41.0ポイントだった。
 資格証の交付は滞納対策として2000年度から義務化されたが、保険料の収納率は91%前後とほぼ横ばいで推移している。このため、保団連は「滞納対策としての効果が薄く、国民皆保険制度を崩すものだ」と批判。
 また現在、保険料を1年以上滞納しても資格証は交付されない75歳以上も、4月からは資格証交付の対象となるが、「高齢者は外すべきだ」としている。
(共同通信社)
受診頻度、一般の人の2% 保険料滞納の資格証交付者

調査によれば、2つのことが浮き彫りになる。
資格証交付を、厚労省は滞納を減らすための手段として自治体が実施するよう指導してきた。記事にあるよう2000年度からは、資格証の交付が義務づけられた。ところが、滞納率が減少したかといえばそうではなく、この手法で滞納を減らすことはできないということが明らかになったわけだ。

もう一つは、タイトルにあるように、国民健康保険(以下、国保)の保険料を滞納している人の受診率がそうでない人に比べると、はるかに低いということ。この問題が深刻である。受診が結果的に抑制され、受診をしないと病気は重篤化する。国民のいのちを守るべき医療制度が、こと滞納者にかぎっていえば機能をしていないということだ。


以下で、全国の自治体が運営する国保制度が危機に瀕していることをのべた。この調査でもそれが追認された恰好で、記事が指摘するように、国民皆保険制度が崩れているといってもよい。

短期保険証が交付されるが、不安定な身分では安くなった保険料でさえも払えなくて、ついに資格証明書の交付を受けることになる。資格証明書という名の無資格であることの証明。10割全額を窓口で負担しなくてはならない。経済的に困窮しているから短期保険証、さらに払えなければ資格証明書ということになるわけだから、もともと医療費全額を窓口で払えることなど、不可能なはずである。理不尽ともいえるしくみなのである。保険加入者のセーフティネットがまったく機能していないことがこの道筋で明らかではなかろうか。

「クローズアップ現代」の警鐘−国民健康保険が崩壊する

国保の加入者は、不安定雇用の労働者、零細な自営業者や高齢者などから成り立っている。

容易に推測がつくことだが、この集団がもともとリスクの高い集団である場合とリスクが分散される場合では、結果に差異が認められるだろう。国民健康保険は、自治体ごとの制度である。その点では加入者数に限度があって大数の法則も利きにくい。しかも加入者の構成の点で明らかにリスクの高い集団から成り立っている。零細自営業者、不安定雇用の労働者などの割合が多くなれば、疾病罹患率も相対的に高いと推測され、それが財政基盤をさらに悪化させるといえるだろう。

世界に冠たる日本の国民皆保険制度。
その皆保険制度が機能不全に陥っている。記事が伝えるのは事実上、保険でカバーされない人たちが私たちの周りには多数、存在しているということだ。本来の保険証をとりあげ、無資格であることを証明するともいえる資格証明書や短期保険証の交付の制度化がそれを生み出してきた。
構造改革は社会の貧困化に拍車をかけた。もともと制度的にもろさを抱えてきた国保制度の基盤をさらに危ういものにしている。国の国庫負担繰入で、国保が制度として機能するようにすべきだ。


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