フランスも日本も医療の危機。


日本の医療崩壊が指摘されている。同じことがヨーロッパでも起きているらしい。今日の日本からみると、フランス、お前もかと思える、こんな書き出しではじまる。
「フランス医療制度の危機」という、『ル・モンド・ディプロマティーク』の文章だ。

フランスの病院および医療制度の危機的な現状は、偶然のなせるわざではない。原因の第一は医師不足にある。過去20年間にわたって歴代政権がひたすら推し進めた政策のせいだ。年間に養成される医師の数は8500人から3500に減った(1)。この縮小政策を提唱したのは医療エコノミストの一部と自由診療医協会である。
http://www.diplo.jp/articles08/0802.html

日本の厚労省は医学部の定員を削減してきた。そのことが今日の医師不足の引き金になっている。記事にあるフランスもまったく同じところから危機がもたらされているということになる。

フランスは国内総生産(GDP)の11%を医療費に費やしている。ドイツやカナダ、スイスと同等で、アメリカ(16%)より少なく、イギリス(9%)より多い。フランスの医療費の割合は今後も増大し、2025年には15%に達すると考えてしかるべきだろう。

 これは社会的な選択である。自由主義の信奉者もまた、医療費の対GDP比が増えること自体に反対はない。彼らが反対しているのは、この大金が収益の法則を免れてしまうことだ。実に驚くべきことに、無用な処方箋の乱発や医療従事者のストの多発、といった原因による医療費の濫費に目くじらを立てるエコノミストや政治家は、以下に述べる三つの分野での多大な濫費については何も言わない。

OECD諸国の医療費のGDP比を示した図を示す。
記事で、フランスは11%とあるが、図でも11.1%とほぼ同じ数値だ。日本はこの時点で、8.0%である。
そして、記事によればフランスでも医療費が高いとはいっても、その真の要因に少しも迫ろうとしないらしい。これも日本と同じであろう。

その三つの分野とは、

第一は、製薬産業による濫費である。

第二に、医療自由化の信奉者は、部分的な民間参入の結果がどうなったかについては押し黙っている。

第三に、フランスは民間営利クリニックへの入院がヨーロッパで最も多い(23%)。

医療費をもっとも増高させるこれらの要因。大きな方向でいえば、日本の実情とまったく変わらない。日本では薬剤費が医療費全体の3割以上を占めている。「保険で使われている薬剤の価格は世界一高く、また医療材料の価格も外国と比べて大変に高く設定されてい」ると指摘される(外科系学会社会保険委員会連合)ほどの、製薬企業などの市場として提供されているというわけである。


保険内診療の自己負担分の拡大、保険外の追加料金の容認、保険医指定の取消という恫喝、民間営利クリニックの(高い収益率による)発展といった様々な政策措置を眺めわたすと、そこには実に一貫した流れがある。社会保険からの診療報酬を細らせ、民間保険をはじめとする補助的保険の間口を広げるということだ。補助的保険の関与が増えれば、医療格差は2段階どころか10段階にも20段階にもなりかねない。めいめいが「ア・ラ・カルト」式で、必要度ではなく経済力に応じて保険を選ぶようになるだろう。医療の民営化のつけを払うのは誰か。富裕層でも中の上の層でもない。とはいえ貧困層でもない。基礎的医療保障でカバーされているからだ。最も大きな打撃を受けるのは、月給が法定最低賃金の1から2倍という中の下の層だ。賃金労働者の過半数に当たる。

だから、こうした医療を破壊させる施策には抵抗せざるをえないというのが筆者らの立場だ。
つぎのように対案の基本的立場を明らかにしている。

こうした政策を食い止めるために、公共サービスを擁護する立場から出せる対案は、住民の必要から出発し、医療への平等なアクセスを保障するような改革だろう。連帯を基本とする医療費負担制度は、社会保険料と税金を財源とすべきである。

かかりやすい医療を保障すること。
医療費の負担は保険料と税金を財源にすべき。
これらの2つは別のことを表現しているのだが、要するに、社会保障の再分配の機能を保持しようということである。

これに大いに同意する。

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