朝日社説;希望社会への提言(14)へのコメント。


件の朝日「希望社会への提言」の14番目*1。いくつもの論点が散りばめられている。賛成するところもあるし、同意しがいたところも少なくはない。気づいた点を以下、列記したい。それぞれ当ブログのコメント、対応する提言部分の順に記す。

1.社説のいう「「皆保険」は安心の基盤」というのは同感。国民皆保険というシステムのベースがあってこそ、医療への国民のアクセスが確保されてきた。

日本では、すべての人が職場や地域の公的医療保険に入る。いつでも、どこでも、だれでも医者に診てもらえる。「皆保険」は安心の基盤である。シッコの世界にしないよう、まず医療保険の財政を確かなものにする必要がある。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#syasetu1


2.国民健康保険制度の財政は、加入者の保険料、地方自治体の拠出金、国庫負担から成り立っている。しかし、指摘されているように、貧困化のなかで加入者の負担が重くなっていて、保険料滞納額の増加につながっている。
そのため、提言にあるように、税金の投入が不可欠だと私も考える。その際、国の積極的な支援が必要なのはいうまでもない。

試算では、サラリーマンの月給にかかる保険料率は平均して約1ポイント上がる程度だが、自営業者や高齢者が入る国民健康保険は、いまでも保険料を払えない人が多く、限界に近い。患者負担を引き上げるのはもう難しかろう。皆保険を守るためには、保険料と患者負担の増加を極力抑え、そのぶん税金の投入を増やさざるを得ないのではないか。


3.後段の文章のとおり、医療は優先されるべき分野。どこが守備範囲とするのかが問題となる。医療にたいする国の責任ははっきりさせておくのが妥当。
ただ、前段の「社会保障を支えるためには消費税の増税も甘受」も無条件に受け入れることはできない。一つは、消費税というしくみがそもそも、再分配の機能をもつ社会保障と合致しない。消費税の逆進性を無視はできない。
社会保障の財源確保のために欠かせないという宣伝がふりまかれている。だが、国家予算の歳出構造を見直すことはできないのか。聖域を見直すことが先決ではないか。税制のあり方、思いやり予算に手をつけられずに低所得者ほど重い消費税を増税しようとする見識を疑わずにいられない。
日本では、社会保障費の国家予算に占める割合は、アメリカよりずっと低いほどだ。

社会保障を支えるためには消費税の増税も甘受し、今後は医療や介護に重点を置いて老後の安心を築いていこう、と私たちは提案した。医療は命の公平にかかわるだけに、優先していきたい。


4.一部のムダをとりあげて、全体が「治療が済んでも入院を続けて福祉施設代わりにする。高齢者が必要以上に病院や診療所を回る。検査や薬が重複する」であるかのように聞こえる議論でもある。
現実には、多くの老人はいくつもの疾病を患っているわけで薬の量は他の世代と比較し多くなるのは当然だろう。
福祉施設代わりにする」とか、老人にたいして「枯れ木に水をやるようなもの」という悪罵は、老人の入院医療費を削るためのキャンペーンにつかわれてきたものだ。病院と福祉施設等、社会的資本の整備を重視し、その解消を図ることが第一義的な課題のように思える。特別養護老人ホームの待機者はどこでも数えきれないほど多いのが実情ではないのか。
在宅で、といっても所詮、かつてとは異なる家族構成に加えて最近の格差、貧困の拡大で在宅で老人をみる条件はなくなっているように思える。限界は目にみえている。

もちろんムダもある。治療が済んでも入院を続けて福祉施設代わりにする。高齢者が必要以上に病院や診療所を回る。検査や薬が重複する。こんなムダを排していくことが同時に欠かせない。


5.医師の絶対数が不足しているのが医療崩壊の根本の要因。欧米諸国と比較しても少ない。

医師は毎年4000人ほど増えているが、人口1000人当たりの医師は2人だ。このままいくと韓国やメキシコ、トルコにも抜かれ、先進国で最低になるともいう。先進国平均の3人まで引き上げるべきだ。医師の養成には10年はかかる。早く取りかからなければならない。

医師が充足するまではどうするか。産科や小児科など、医師が足りない分野の報酬を優遇する。あるいは、医師の事務を代行する補助職を増やしたり、看護師も簡単な医療を分担できるようにしたりして、医師が医療に専念できる環境をつくることが大切だ。


6.国が医療という分野は責任を負うべきものという認識を一致させる必要がある。
その上で、国民健康保険制度など自治体が運営主体という現状をふまえて、どう支えるのかという議論になる。保険制度である以上、単位を小さくすればするほど財政上は不安的になる。ようは大数の法則が成り立たない。
朝日の主張はこの点で首をかしげるものだ。政府の政策に引きずられている感が否めない。

以上の制度ができたとき、医師を計画的に養成するのは中央政府の仕事だ。しかし、それ以後は思い切り分権を進め、地域政府にまかせるべきだ。

前述した配置も、都道府県が地元の病院や医学部、医師会、市町村などと相談しながら決める。医師の多い県から出してもらう必要も生じるだろう。

*1:希望社会への提言(14)―医療の平等を守り抜く知恵を