弱者への転落。タクシードライバーの場合


規制緩和の名で再編がすすんだ一つにタクシー業界がある。結果的に、美名のもとでとどのつまり、労働者にしわ寄せが及んだ。タクシードライバーの給料が月額手取り20万円という人なんて、聞いたことがない。多くは10万円台前半。タクシー業界の労働組合の人と話す機会があったが、少なくとも知る限りそうだ*1
ケーススタディにたまに顔を出すのだが、そこで検討されたケースの概略をあげる。

Zさんは2カ月前にある病院にかかり、肺がんと診断されました。当然、入院が必要なのですが、仕事しないでは食っていけない。Zさんは、入院なんかできなくて、そのままタクシーの運転をつづけていました。
その後も病院から強く入院を勧められたZさん。2週間近く入院したが、医療費の問題がつきまといます。いったん退院し、会社に病気のことを伝えると、今度は退職を勧告された。住んでいた寮も追い出されました。
退職金なし。所持金はまったくありませんでした。たちまち食べるのに困りました。親族とも疎遠で、離婚し家族とも行き来のなかった彼が選んだのは路上生活者でした。
しかし、一週間で症状悪化。再び、入院となりました。

報告者はこのケースに以下の考察を加えて報告をまとめている。

  • 国の規制緩和によるタクシー台数と乗客数減少による収入の低下
  • 10年間で約100万円の収入減。他産業との格差が拡大した。タクシー労働者の8割が生活苦と答えたアンケートもある。
  • 病気にかかるなどが、ホームレスになる引き金になる。
これは、日本社会のほんの一面を伝えるものでしかない。が、特殊なケースだとも思えない。この業界の労働者の多くが、上記アンケートにも示されるような意識を現にもっているようだし、ワーキングプアをかかえ、そしてその寸前の労働者も多いことが推測される。タクシー労働者の年収が常用労働者のほぼ2分の1にすぎず、300万円も割っているというデータは動かしがたい。
料金値上げはおそらく焼け石に水。労働者は少しも潤わない。規制緩和政策の是非にとりあえず話を戻すべきだ。