人間と情報を進化論に接続する


生物を対象として発展させられてきた進化の理論を、生物以外のシステムにあてはめることができるかどうか、あてはめたらどうなるか。これは、いいかえると、知識の進化を追体験するということだ。私たちが知り、考え、討論し、書き出すことは、何千年という過去からのつながりの末に存在する事柄だ。    
進化論という考えかた (講談社現代新書)』で著者・佐倉統は、こんな問題意識から、現代進化論を「人間」と「情報」という2つのキーワードから整理を試みる。そして、この2つの概念を進化論と組み合わせることによって、生物学と他の諸科学との架橋が可能だと考える。

ヒトゲノムに象徴される21世紀の生物科学は、人間観だけでなく社会のあり方そのものをも大きく変える可能性をはらんでいる。いうまでもなく進化論は、生物の進化を説明する理論として発展してきた。それを跡づけた第1章から本書ははじまる。さらに、人の心と進化、つまり人の心はどこまで進化で辿れるのかという問題、進化と情報、自然とはいったい何か、という具合に、著者の示す論点はきわめて興味深い。

著者はつぎのようにいう。

科学の場合は枠組みの共有が自明のことではないので、共有のための方法論が必要になる。これが宗教であれば、そんな方法論は必要ない。共有するところから出発するからだ。

宗教はそれ自体、自己完結的であって信者は超越的存在から出発する。換言すると、根っこを共有すること、同じ土俵を設定することこそ、科学の方法論の重要な要素ということだ。

こうした根本のところでのコミュニケーションの不在からはじまる、つまるところ科学の出発点を見出そうとする科学的態度を一つの「物語」としてとらえ、その往復運動によって克服することを、著者は強調する。一つの事実は、それだけでは意味をもたない。ほかのさまざまな事実と関連づけてはじめて意味をもちうる。この関連づけと解釈を、佐倉は「物語」とよぶわけである。
21世紀の生物科学は、人間観、社会のあり方をも大きく変えうると先にいったが、諸科学の発展によってどのように将来を切り開いてゆくのか、それにはどうしても「物語」が不可欠だと、私たちに語っているのだ。