731部隊;なぜ医学犯罪が起きたのか(1)


日本政府は戦後、医学犯罪への関与を否定してきた。そして、日本の医学界が戦争にふれたのは、公式には以下が唯一のものといわれている。

日本の医師を代表する日本医師会は此の機会に戦時中に敵国人に対して行った暴行を非難し、又行われたと主張され、そして二、三の場合には実際行われたという患者の残虐行為をとがむ
(世界医師会加盟にあたり、日本医師会が発表した声明から、1951年)


15年戦争で、旧日本軍は中国人などを「マルタ」と呼び、符番をし、生体解剖・人体実験をくりかえした。731部隊はよく知られているところだろう。だが、上の声明からは、医学犯罪に自らかかわったことに口をつぐんだ、傍観者からの視点しか読み取れない。医学者・医師が多数参加したにもかかわらず、犯罪は不問にされてきた。


大阪市で今年4月開かれた日本医学会総会では、「戦争と医学」展が出展され、シンポジウム「戦争と医の倫理」がおこなわれた。医学者・医師の戦争責任をあらためて問い直し、その反省にたっての実践だと評価されるだろう。
シンポジストの一人、王鵬氏(中国・731部隊罪証陳列館館長)は、概要、以下のように報告している。

731部隊は、中国・ハルビンに居座り、細菌兵器の研究・実践では当時の「世界ナンバー1」でした。1945年、降伏前に731部隊は大量の証拠を隠滅、拘禁者をすべて殺した後、日本に撤収しました。被害国の国民として、731部隊が残忍の限りを尽くし、大量の生きた人間を使い人体実験をしていたと知ったとき、誰でも怒りで胸がいっぱいになると思います。
細菌注射、凍傷実験、小腸と大腸の縫合、人馬血交換注射などがおこなわれ、731部隊がやってみたいと思ったことはすべて実践されました。元関係者の証言を見てみましょう。
―中国人5人をペストに感染させて免疫能力を測る実験がされた。一人は、生きながら頸動脈にそって切開され、呼吸が止まった後、臓器は切り刻まれた。
―「演習」と称して、中国人やロシア人を木で支えたベニヤ板に縛り付けて爆撃した。爆撃後、爆死した者、腕が無い者もいた。記録班が写真撮影をおこない、爆弾の破片、破壊力、土壌の状況を点検している者もいた。

私は人類が疾病予防、健康増進のためにおこなう人体実験は必要だと考えています。しかし、決してみだりにおこなってはいけません。
中国では、多くの医学者が治療方法を探るため自分の体を使って実験しました。古代の名医・華陀は、麻薬の一種・麻沸散の研究のため自分で服用し、唇の感覚がなくなるまで試しました。
2005年にノーベル賞を受賞したオーストラリアの医学者バリーマーシャル教授も、ヘリコバクターピロリ菌の培養基液を飲んで研究を重ね、胃潰瘍を薬で短期問で治せる病気だと証明しました。

私たちはこれらのことから、(1)人体実験は自発的に自分の体を使ってする、(2)人体実験の目的は、医学研究の、人類の健康のためである、という二つの共通点を見ることができます。
731部隊がおこなった人体実験では、被験者は残忍な実験方法で傷つけられ、殺されました。彼らの医学研究は細菌戦のためでした。完全な無理強いで、合法かどうか、被験者が望んでいるかどうかなど考えなかった。戦後は必死で隠しました。
人体実験は(1)医学、全人類の幸福のためで、(2)本人の同意がなくてはならず、(3)倫理道徳を守らなければなりません。
この三点が基礎になってこそ成り立つと考えます。これ以外は医学という錦の御旗を掲げていても不道徳なものです。この三点をないがしろにして人体実験を語るのでは、731部隊と同じ轍を踏んでしまうのではないかと思います。