本棚

加藤周一「語りおくこといくつか」− 法解釈と言葉の運用

文章の質という点で森鴎外と石川淳を一つの線で私はとらえます。 加藤周一をその線分の延長上に位置づけてもおかしくはないと考えるのですが、やはり少し違うようにも思えます。 明晰な文章で三者は相通じ、世界のとらえ方で微妙に異なる。結局、唯物論的思…

『理論劇画 マルクス資本論』− 現代の難問をマルクスはどう解く

もう二月ほど前になるでしょうか、紙屋さん*1がひょっこり私の勤務先に顔を出しました。どうしたのと尋ねると、彼もまちがいなく青年なのだけれど、なんでも青年を対象に話をするらしい。それで社会保障分野のある本がほしいということでした。医療分野の青…

大澤真幸「逆説の民主主義」

61回目の憲法記念日をめぐる新聞メディアの反応は、参院選後の状況も加わって、憲法の存在意義を説いていた。 が、以下のような切れ味のある見解を記したものはさすがになかった。 憲法を活きたものにするためには、われわれには、その前にやらなくてはな…

石原千秋『国語教科書の思想 (ちくま新書)』

教室はまちがえることのできる空間なのだ。 教室はまちがいが許されない空間、というより返答や解答する際、まちがえないようにと意識はそこにあったから、著者・石原千秋のこの言葉は、どこか新鮮に響くものがあった。 つづけて石原はいう。 教室はまちがう…

『世界』2月号−医療崩壊を特集

『世界 2008年 02月号 [雑誌]』が「医療崩壊をくい止める」という特集を組んだ。特集のハイライトは、宇沢弘文氏と出月康夫氏の対談である。「社会的共通資本としての医療をどう守るか」と題して、医療崩壊の全体像を明らかにしている。宇沢氏は、よく知られ…

岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』

生まれてこのかた肥満とは無縁だったので、太った人をみてはどうしてあんなに太るのだろうと正直思ってきた。それ以上でも以下でもなくそう思っていた。いろんな要素はあるにしても、『いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)』の著者によれば、つまるところ肥…

愛国者って何なの。

ふふふ。右翼の書いた本を読むなんて。自分でも笑ってしまう。実は、日本共産党が書評欄でこれをとりあげ、右翼の最大の標的にされてきたのがほかならぬ日本共産党だと思っていたので、その政党がこの本を取り上げたこと自体、私には興味津々だった。

加藤周一という思想

だれでも、こだわりつづけ、ずっと長い間よみ続けている作家や思想家がいるのではないか。加藤周一は、私にとってはそんな一人。だから、とりあげないわけにはいかない。よみ続けてすでに数十年、自伝的な『羊の歌』から『日本文学史叙説』まで。目を開かれ…

環境問題と養老孟司

著者養老孟司氏はいうまでもなく「売れっ子作家」である。どこの本屋にも著作が並んでいる。 本書『いちばん大事なこと ―養老教授の環境論 (集英社新書)』はサブタイトルにあるように解剖学者の養老氏の環境論である。つまり、いちばん大事なことは環境だと…

それぞれの極上品

書斎というには粗末な環境で、どこにでもあるような文具を使ってきた私には、『書斎の極上品』というタイトルはまったく似つかわしくはない。 6、7年前の話。この時期、文房具に多少興味があり、ひょっとしたら凝っているのだと自分で勝手に考えていたため…

戦後責任論

原本が出版されてすでに丸6年は経過しているが、その主張の射程は現在をとらえていると思う。以下はcoleo流メモ。 責任の意味 本書の題名にかかわる責任ということを、高橋哲哉は、responsibilityということばを用いて、「応答可能性」という切り口でとらえ…

平和の意味の拡張。

戦争がない状態を平和とよぶ考え方がある。その考えにしたがえば、この60数年、日本は平和だったということになるだろう。最上敏樹氏が『いま平和とは―人権と人道をめぐる9話 (岩波新書)』のなかで、このような平和のとらえ方にたいして、平和の意味を拡張…

ブログに何ができる…。

1995年は日本におけるインターネット元年という説があって、それ以来、仮にわれわれがネット環境にいなければ、それだけで仕事がちっとも進まないと多くの人が実感する時代になってしまった。そうした変化を日本社会の変容とよぶとすれば、その変容はわ…

「政治家の息子とプロ野球の息子」。

と、一風変わったタイトル。実は、橘木俊詔氏の著書『格差社会―何が問題なのか (岩波新書)』のなかの小見出しをそのまま拝借した。 格差社会という言葉は知らぬ者がいないほど広がった。そして、「格差の何が悪い」といい放ったのが小泉純一郎だというのも、…

神の領域はどこにある…

神はどこに在るのか。子どものころの疑問だった。といっても、思想家の思索というものではむろんない。神さまって、いる、いない、という単純な話だ。見ない、見えない神さまって、いったいどんな「人」か、そんな他愛のないものだったように思う。

「悪魔のささやき」と格闘する。

ライブドアや村上ファンドをめぐる一連の騒動、耐震偽装建築、防衛施設庁談合事件をはじめとする官僚と企業の癒着、“小泉劇場”と呼ばれた2005年衆院選での自民党の圧勝、ネットで知り合った赤の他人同士による集団自殺、引きこもりやニートの増加、子供…

ハーヴェイの新自由主義論

新自由主義路線の象徴ともいえる郵政民営化が昨日、持ち株会社・日本郵政株式会社のもとでスタートした。 日本を席巻して久しい新自由主義が、社会の亀裂を生み出したばかりに参院選では手痛い仕返しを結果的に食らうことになった。その中での民間会社の発足…

人間と情報を進化論に接続する

生物を対象として発展させられてきた進化の理論を、生物以外のシステムにあてはめることができるかどうか、あてはめたらどうなるか。これは、いいかえると、知識の進化を追体験するということだ。私たちが知り、考え、討論し、書き出すことは、何千年という…

内橋克人氏が描いた「悪夢のサイクル」

きのうは今日と違い、今日は明日と違うのです。 しかし、目にみえないゆるやかな変化を人が気づくことはなかなかありません。 1週間前のあなたが世界をどうみていたのか、世界がどうあったのかは、今日のあなたがどうであったのか、そして1週間の世界がど…

丸山眞男を苅部直はどう読んだか。

丸山眞男。これまでいろいろな意味で注目されてきた知識人であることは疑いようもない。その評伝『丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)』(著:苅部直)を読んだ。

『茶色の朝』と日常に身をまかせること

透きとおるように晴れわたった空をみて、それを茶色だという人はいないだろう。しかし、それを強制される仕組みができあがったらどうなるのか。私なんかは、ただちに色彩感覚をさも失ったかのごとく以降、「ポストの色は赤、雪は白い」ということすら躊躇す…

『メディア社会―現代を読み解く視点 (岩波新書)』(佐藤卓己)紹介

私たちはテレビやインターネットや携帯電話に囲まれたメディア社会の生活を自ら捨てることはできないだろう。その軽薄さを「古きよき里山」の基準から批判するのは容易である。しかし、それは多くの大衆文化批判と同じく、リベラルそうに見えて傲慢である。…

米国は日本の鏡

米人口統計局が10年ごとに行っている人口統計によると、全人口に占める白人の割合は、減少傾向にある。 1980年⇒83.1% 1990年⇒80.3% 2000年⇒75.1% 一方、2000年の人口統計で、総人口は2億8140万人。うち3110万人(…

鈴木直『輸入学問の功罪−この翻訳わかりますか?』のこと

鈴木直『輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)』(ちくま新書)。 触手が動いた一つが「『資本論』の翻訳」という一章だ。そこに、マルクス『資本論』翻訳文体をめぐる攻防戦*1が記されている。いくさを私は好まないが、翻訳の文体をめぐって…